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トライアングル25
「紘海。拓斗にちょっかい出してないで、そろそろ2階に案内してくれ」
修平の言葉に、紘海は目を丸くして
「え?もう上にいくの?まだ早くない?せっかく会えたんだからもうちょっとお喋りしたいんだけどな。もう2人っきりでいちゃつきたいんだ?」
「ばか、違う。荷物、整理したいからな。それにどうせおまえのことだ。客間の布団、シーツも替えてないだろ?」
紘海はふふんっと笑って
「いや。今回はね、拓斗も来るって聞いてたから、布団干してシーツも新しいのに替えてあるよ」
「へえ。おまえにしては気が利くな」
まだ熱い頬を両手で押さえながら、2人の会話をぼんやり聞いていた拓斗は、驚いて手を離し
「え?布団って、もしかして泊まるの?今夜」
そんなこと、聞いてない。
てっきり日帰りだと思っていた。
拓斗の言葉に、今度は2人が意外そうにこちらを見て
「あれ?兄貴から聞いてない?」
「1泊するよ。言ってなかったか?」
拓斗は首を横に振った。
「でも俺、着替えなんか持ってきてないし」
「大丈夫だ。俺のTシャツと短パン、余分に持ってきてる。下着は新品のストック、袋ごとな」
拓斗は唖然として修平の顔を見つめた。
……や。大丈夫って。着替えだけの問題じゃ、なくて。
車で2時間ほどの隣県なのだ。
わざわざ泊まらなくても……。
「でも修平。俺、」
「急に翡翠を紘海と2人きりにして置いていくより、ひと晩様子見てから帰った方が安心だろ」
拓斗は口を噤んだ。
なるほど。そういうことか。
たしかに修平の言う通り、その方がいいかもしれない。でも、修平がそこまで翡翠のことを考えているなんて、意外だった。
……知らなかったけど、修平ってめちゃくちゃ猫好き?しかもちょっと過保護かも……。
拓斗は、出来ればほぼ初対面の相手の家には泊まりたくなかった。しかも紘海はちょっと苦手なタイプだ。
でも、修平が一緒ならば、大丈夫かもしれない。
「そっか。じゃあ、紘海さん。俺もひと晩ご厄介になります」
拓斗がおずおずと頭をさげると、紘海は嬉しそうに頷いて
「うん。気楽に泊まってって。じゃあとりあえず、2階の客間、案内しようか」
ほぼ同時に立ち上がった2人につられるようにして、拓斗も慌てて立つ。
「この家で一番広い部屋だよ。来て」
拓斗はそっと傍らの修平を見上げた。修平の腕が伸びてきて、肩をぎゅっと抱かれる。
「そんな不安そうな顔、しないよ。俺と同じ部屋。あなただけ、ここに置いてったりしないから」
そっと耳元に口を寄せて囁かれ、拓斗は思わずきゅっと首を竦めた。
あの薬の効果は、完全におさまっていない。まだ少し身体が熱く疼いていて、感覚が鋭敏なのだ。
「可愛いな、あなた。そういう顔、紘海に見せちゃダメだよ」
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