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トライアングル37
修平の後に続いて1階に降りると、紘海がテーブルに皿を並べて待ち構えていた。
「おはよ。拓斗。少しは休めた?」
紘海はなんだか意味ありげに微笑んでいる。拓斗はちらっと修平を見た。
2階にあがってから何をしていたと、修平は説明しているのだろう。
「やっぱりあんまり体調がよくないみたいだな。このところ、仕事でトラブルが起きてたから疲れが溜まってたんだろう」
修平はサラッとそう言うと、肩に手を回してきて
「ほら、座って。食べられそうになかったら、無理しなくていい」
拓斗は修平と紘海をちらちらと見比べながら、椅子に腰をおろした。
「そっか~。それは残念。例の酒蔵でさ、珍しくワインが手に入ったんだよね」
修平は隣の椅子に腰をおろしながら
「へえ。あそこのワインか。よく買えたな」
「うん。たまたま蔵主催の窯出し展示会に遊びに行ったらさ、親父さん、新作のワインを出してきてくれたの」
「ラッキーだったな」
紘海はひょいっと立ち上がると、棚から縦長の箱を持ってきて、元の椅子ではなく拓斗の隣にどっかりと腰をおろした。
「ほら、これ。幻のワイン」
椅子をわざわざこちらに寄せて、くっつかんばかりの距離で身を乗り出す紘海に、拓斗はもじもじと身を引いた。
「幻の?」
「そ。よくそういう枕詞がついてる酒ってあるけど、こいつは正真正銘の幻。日本酒作ってる酒蔵で親父さんが気まぐれにしか作らない貴重なワインなんだよ」
「すごい……ですね」
酒はそれほど強くもないしそんなにアレコレ飲むわけじゃないから、拓斗は反応のしようがなかった。
紘海は、気のきかない相槌にも一向に頓着せず
「これに合う酒のアテを考案したんだよね。今夜は3人で飲み明かすつもりだったのにな」
「諦めろ。拓斗に飲んべえの相手は無理だ。体調も悪いが、もともと酒はそれほど強くない」
修平の淡々とした返しに、紘海はへらっと笑って首を竦め
「了解。んじゃ、諦める。でもさ、アテは食ってみて。そんなに重たい物は作ってないから」
「あ。はい。ご馳走になりま」
言いかけた時ににゅーっと手が伸びてきて、おでこに手のひらをあてられた。
「んー。顔赤いけど、思ったより熱はないね」
紘海の大きな手のひらが額をぴたっと覆っている。拓斗は慌てて顔を引いた。
こういう遠慮のないスキンシップがどうにも苦手なのだ。隣で見ている修平の視線が気にならないのだろうか。
自分は、兄の恋人なのに。
……恋人……なんだよな。俺って。紘海くんにもそう説明してるんだよな、修平。
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