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トライアングル38

出来るだけ紘海から身を離しながら、拓斗は勧められた酒のアテを摘んでいた。 修平に身を寄せている自分の態度を気にした様子もなく、紘海はご機嫌で店にくる変わった客の話を楽しげにしている。 紘海が作った料理は、これまで食べたことがないような味がしたが、意外と美味かった。 修平はお喋りをほとんど弟に任せて、黙ってちびちびと酒を飲んでいる。 「明日、時間あったら面白い店に連れてくけど」 「いや。明後日から東京に研修だからな。俺も拓斗も準備があるから、昼前には出る」 「ふーん……残念」 不意に、修平のポケットの携帯電話が着信を告げた。修平は画面を確認すると立ち上がり 「ちょっと外す」 そう断って、部屋から出て行った。 急に紘海と2人きりにされて、拓斗は修平が出て行ったドアの方をじっと見つめた。 早く戻ってくれないと、間が持てない。 だが、修平はすぐに戻って来た。拓斗が内心、ほっと胸を撫で下ろしていると 「拓斗。悪いけど、ちょっと出てくる」 「え……?」 「明日午前中に会う予定してた大学時代の悪友が、急な出張で都合がつかなくなったらしい。今、近くまで来てるって言うから、ちょっとだけ顔を見てくるよ」 拓斗は目を見開いた。すぐに戻って来てくれてホっとしたのに……それはない。 「俺も……」 拓斗が慌てて腰を浮かしかけると 「じゃ、拓斗は俺がもてなしとくよ。久しぶりに会うんだろ?ごゆっくりどうぞ」 「ああ。悪いな。なるべく早く戻る」 拓斗に口を挟む隙も与えず、2人で勝手に話を進めると、修平はさっさと玄関の方に行ってしまった。 拓斗は浮かしかけた腰を力なく下ろすと、俯いて料理の皿をじっと見つめた。 ……どうするんだよ……紘海さんと2人っきりって。……修平の、バカ。 自分が人見知りなのは知っているはずなのに。紘海は変わっているから、あんまり付け入る隙を見せるなと、修平自身が言っていた癖に。 「拓斗ってさ」 紘海が椅子をこちらに寄せて来た。 「思ってること、結構、顔に出るよね」 「え……」 「それに、人見知り?初対面、かなり苦手でしょ。修平と同じ営業職とは思えないね」 ズバズバと言い切られて、拓斗はムッとした。 紘海の指摘は間違ってない。自分でも気にしていることだ。でも年下で今日がほぼ初対面に近い相手に、面と向かって言われるのは気分がよくない。 「確かにそうだけど……。紘海くんは思ったことズケズケ言うタイプだよね。俺よりずっと、営業向きかも」 思わず、口から言葉が零れ落ちた。

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