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トライアングル39

「へえ……。やっぱ意外」 紘海の低い呟きに、ハッと我に返った。 ついムッとして、すごいことを言ってしまった気がする。頬がカッと熱くなるのに、背中に冷や汗が流れた。 紘海はズイっと身を寄せてきて 「やっぱいいな、あんた。兄貴にはもったいないよね」 触れそうなほど近くに、紘海の顔がある。仰け反って離れようとした背を、紘海の腕が阻んだ。 「ねえ、拓斗。兄貴のどこがいいの?あの人、あんたのこと、大切にしてくれてないでしょ」 紘海の体温がじとっと絡みついてくる。拓斗はじりじりと身を捩った。 嫌だ。触られたくない。 「こうき、くん、ね、やめ」 「俺にしとけば?俺ならあんたのこと、もっと大切にするよ?ベタベタに甘やかしていつも満たしてあげる」 紘海の酒臭い吐息が顔にかかる。 嫌だ。触るな。 「なあ、拓斗……」 「さ……っ、触るな!離せよ!」 背中を手のひらで意味ありげに撫でられて、もう我慢の限界だった。 拓斗は叫んで手を伸ばす。その手が紘海の頬をピシャリと叩いた。 「……ってぇ~……」 紘海は怯んで自分の頬に手をやり、急に表情を凄ませると、もがく拓斗の両手をガシッと掴んだ。 「っ」 射すくめるような強い眼差し。目がギラギラしている。 「離せ」 「やだ。あんたが欲しい」 「やめろって。俺は、修平の、」 「恋人?兄貴の?別れたんでしょ、あんたたちって」 拓斗は反論出来ずに息を飲んだ。 「いきさつ。詳しく聞いてないけどね。あんた、兄貴に振られたんだよね?」 拓斗は唇を震わせた。 紘海の言葉は嘘じゃない。 たしかに自分と修平は別れた。別れを告げたのは自分だったが、修平は表情ひとつ変えずに「そうか。じゃあね」淡々と答えてその場から立ち去った。あれは自分の方が振られたのだ、こっぴどく。 でも……今は一緒にいる。修平はよりを戻すとは言ってないけど、でも、自分を抱いてくれた。情熱的に。 「キスマークいっぱいつけて、兄貴に愛されてるって安心してんの?ただのセフレかもしれないのに。簡単に抱ける相手って思われてるだけなんじゃない?」 「っ、」 拓斗は掴まれた手を捻じるようにして振りほどき、紘海の頬をもう一度打った。 打たれた紘海は怒りにギラついた目で、手を伸ばしてくる。抱き竦められそうになって、思わず両手で力一杯紘海の身体を押し戻した。バランスを崩した彼の身体が後ろに仰け反る。その隙をついて、椅子から立ち上がった。 よろけた紘海が体勢を立て直す。 拓斗は後ずさりながら、紘海と向かい合った。 「あんたのために言ってるよ、俺は」 紘海の表情がガラリと変わっていた。憐れむような気遣うような、ちょっと悲しげな顔をしてこちらをじっと見つめて 「悪いことは言わない。兄貴はやめとけよ。あんた、傷つくよ。あいつはそういう奴だから」

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