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トライアングル41
「拓斗さん。怒んないでよ。揶揄ったみたいになったのは謝る。ごめんなさい。でも兄貴は、」
「みゃーん」
足元で翡翠が鳴いた。
拓斗はハッとして下を向く。
すっかり寛いで、窓際のソファーをお気に入りの場所にしていた翡翠が、足にまとわりついてこちらを見上げていた。
「にゃーぅ~」
拓斗はその場にしゃがみ込み、翡翠の身体を抱き上げた。顔を寄せてすりすりする。翡翠は嫌がりもせずに、じっとしていた。
「ごめん。驚かせて」
大声を出したから、きっと不安になったのだろう。翡翠は少しもがいて頬をぺろぺろしてきた。涙を拭ってくれているみたいだ。
「君にこの子預けるの、やめるね」
「えっ、あ~いや、ちょっと待ってよ」
紘海は息を飲み、1歩前に出た。拓斗は翡翠を抱き締めたまま、また後ずさる。
「ほんと、ごめん。余計なこと言った。怒らないで、俺もう」
「何を言ったんだ?」
唐突に修平の声がして、拓斗は店の方のドアに視線を向けた。
開けっ放しのドアの所に修平がいる。怪訝そうに首を傾げ、自分と紘海を見比べて
「どうした?」
「俺が余計なこと言って、拓斗…さん、怒らせちゃった」
すかさず紘海が答える。修平は眉を顰め
「またか。おまえ、よく考えもせずに喋りすぎだ。拓斗を怒らせるなんて相当だろ」
ふう…っとため息をつくと、つかつかとこちらに歩み寄ってきて
「拓斗。ごめん、用事は済んだから。上に行くか?」
拓斗は泣いていた顔を見られたくなくて、慌てて俯いた。
「悪いけど、修平。俺もう帰る」
「え?」
「翡翠はここには預けない。どっか預けられるペット用のホテルを探す」
「あ、ねぇ、拓斗さん。待って」
修平はいっそう眉をきつく寄せて、焦る紘海を睨みつけ
「何を言ったんだ?拓斗に」
「……や。あの……兄貴じゃなく俺にしとけって、……口説いた」
あっさり白状した紘海に、拓斗は驚いて顔をあげた。
「馬鹿か、おまえ」
修平は吐き捨てるようにそう言って
「拓斗が一番嫌がるやつだ。ほんと、おまえって懲りないな。何度トラブルになれば気づくんだ?」
修平に強い口調で怒られて、紘海はしょげたように肩を落とした。
「……すみません」
「おまえ、全然悪いって思ってないよな?口は災いの元だって、いい加減覚えろよ」
修平はそう言うと、くるっとこちらを向いた。拓斗はそっと紘海の顔色を窺うが、無表情で何を考えているのか全く分からない。
「あなたも機嫌直して?紘海のしたことは、俺からも謝るから」
拓斗は複雑な思いを噛み締めた。
紘海が自分を口説くついでに言った暴言を修平が知ったら、修平もきっと怒ると思うのだ。
「でも……」
「今からペット用ホテルを探すのは厳しいよ。それが無理そうだからここに連れて来たんだよね。もし見つからなかったら、翡翠をどうするの?」
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