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トライアングル42
そう言われてしまうと、返す言葉がない。
「紘海はこの通り、空気読めない発言する奴だけど、翡翠はもうすっかり懐いてる。馬鹿だけど悪い奴じゃないんだ」
拓斗は眉を寄せて紘海を睨んだ。
修平の言葉には、同意出来ない。
修平は弟を庇ってるのに、紘海は兄の悪口を言ったのだ。
紘海は全く表情を変えない。
目が合いそうになって、拓斗はぷいっと目を逸らした。
「ご機嫌、直らない?」
「……分かった。翡翠は……預ける」
正直、紘海の世話にはもうなりたくない。でも修平の言う通り、研修で留守にする間、翡翠を自分の部屋に置いておくわけにはいかないのだ。
「うん。いいこだね、あなた」
修平はにこっと笑うと、腕をグイッと掴んできた。不意をつかれてよろける身体を、修平がふわっと抱き締めてくれる。
「あ……」
「紘海に翡翠を任せて、上に行こう」
優しく囁かれてドギマギする。でも嬉しかった。修平の行動は、紘海に自分は自分の恋人だと示してくれている気がした。
「紘海。翡翠を頼むな。俺らはもう2階にあがるから」
「うん。わかった。安心して。翡翠ちゃんは責任持って面倒見る」
紘海は何事もなかったように、明るくハッキリと答えた。ああいう所が、本当によく分からない人だ。
拓斗は翡翠を優しく足元の床におろしてやった。
「なーうー」
翡翠は翠色に光る大きな瞳で、じっとこちらを見上げ、可愛らしくひと声鳴いた。
「で。紘海になんて言われたの?」
2階の部屋に入るなり、抱き竦められた。
拓斗は一瞬身を固くしたが、すぐに力を抜いて修平の胸に顔を埋めた。
「口説かれた、だけ」
「それぐらいなら、あなた、そこまで怒らないよね」
拓斗は唇を修平のシャツにぎゅっと押し付けた。紘海の発言は許せない。でも、本人のいない所で告げ口みたいなことは、したくない。
「教えてくれないの?」
「もう、いい。忘れた」
拓斗は顔を埋めたまま、もごもごと答えた。修平の体臭混じりのコロンの香りに顔を突っ込んでいると、怒りに泡立っていた気持ちがだんだん落ち着いてくる。
ムキになった自分も悪いのだ。
セフレと言われて、自分でもそうかもしれないと不安だったから、図星を指されてムカッときた。
大人げない反応だった。
紘海が何を考えているのか、本当のところは分からない。でも、修平にとっては血の繋がった弟なのだ。これ以上揉めて気まずくなるのはダメだ。
「あなた、本当に頑固。当ててみようか?紘海は、薄情な俺なんかもうやめて、自分にしろって言ったんだろ?兄貴とじゃ幸せになれないって。違う?」
拓斗は息を飲み、恐る恐る顔をあげた。
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