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トライアングル52※

エスカレーターであがった先は、映画館と美術展示室のある階だった。 映画館の方には人が大勢いるが、修平はそこを素通りして、奥の美術展示室の方に向かう。 「ね、修平、どこに、」 修平はちらっと振り返ったが何も言わずに、こちらの手を握り直すと、足早に展示室の入口も通り過ぎた。 行き止まりの手前に通路がある。そこを曲がって真っ直ぐに進むと、日曜日のショッピングモールとは思えないくらい、静かな場所に辿り着く。 「今日は展示やってないから、誰もいないな」 修平は独り言のように呟くと、突き当たりのドアを開けた。 修平に引っ張られて中に入って、拓斗は目を見張った。 「ここ……洗面所……?」 「そ。誰もいないよね。ここって、あまり知ってる人いないから」 修平は言いながら、洗面フロアの奥の個室に向かった。 「ここなら広いかな」 また独り言のように呟くと、洒落たデザインのドアを開ける。中は普通に便座のあるトイレの個室だ。ただ、ドアのデザイン同様、ちょっと洒落た造りになっていて、普通の個室の2倍以上の広さがある。 思わず一緒に入ってしまって、拓斗はハッと気づいた。 同じ個室に2人で入ってどうするのだ。 「あ、修平、じゃ俺、他の…」 言いかけた時、掴んだ手をぐいっと引き寄せられた。あっと思った瞬間、修平の顔が迫ってきて、唇を奪われる。 「……っっっ」 噛み付かれるみたいに勢いよく奪われて、息が詰まった。驚いた拍子に開いてしまった唇の隙間から、修平の舌が捩じ込まれる。 「んんん…っふんぅ…っ」 修平の動きを受け止めかねて、足がよろけた。トイレの壁に背中が当たる。つられてよろけた修平の歯が、自分の歯に当たってガチっと硬い音が鳴った。 少し口を離した修平の顔が焦点を結ぶ。苦笑いして、また近づいてきた。 反応出来ないまま薄く開いた唇を、下から掬いあげるように、修平の唇が包み込む。 今度は大人しいしっとりとした口づけだった。拓斗は壁に背を当てたまま、修平の両肩を縋るように掴む。 仕切り直しの穏やかに始まったキスは、あっという間に熱を帯びる。ぴちゃ…ぴちゃ…という微かな水音が、2人の吐息すら濡らしていく。 「ん……ふ……ん……」 絡め取られた舌を吸われて、頭の中がじん…っと痺れてきた。 修平とのキスは、いつもまったく違う。戯れかと思えば深く忍び入ってきて、唐突に突き放されては、飢えた獣のように奪われて息が出来なくなる。 翻弄されて、何も考えられなくなる。気がつくと、抑えがきかないほど狂おしく乱され、身体の奥底に火を灯されていくのだ。

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