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トライアングル59

修平の指はしばらくの間、しつこく乳首を悪戯していた。拓斗がピクピク震えながら必死に声を殺していると 「そろそろ戻ろうか?」 静かに問いかけてきた。 身体の奥でまだ甘い熱が燻っている。 でもキリがないのだ。 いつまでもここを占領していたら、不審に思った施設警備員が様子を見に来るかもしれない。 「うん。……もう、帰りたい」 「わかった」 修平はあっさりと乳首から手を離すと、こちらの脇の下に腕を突っ込んで、抱えるようにして立ち上がった。 「立てる?」 本当はまだ足がガクガクする。でも拓斗は精一杯、両足を床に踏ん張った。 「うん。平気」 修平は手を離すと、便座の後ろの棚に放り投げていた服を掴んで渡してくれた。 修平に手伝ってもらって服装を整え終えると、拓斗はほ…っと吐息を漏らす。 足の力はだいぶ戻ってきたが、薬と愛撫でグズグズに蕩けてしまった身体の奥は、まだじんじんと熱を持って疼いている。 「薬、まだ残ってるよね。あなた、色っぽい顔のままだ」 乱れた髪の毛を軽く撫で付けてくれながら、修平は楽しげに囁く。 拓斗は黙って修平をじと…っと睨みつけた。 開閉用の大きな押しボタンに、修平が手を伸ばした。 音もなくドアが開き、狭い空間から解放されると、急に尻込みしたい気分になった。 廊下には相変わらず人影はないが、下の階に降りていけば、買い物客で賑わっているのだ。その中に平然と紛れ込む自信なんかない。 「待って、修平」 先に出ていく修平の腕を慌てて掴んだ。 「なに?」 「下に……行くの?」 「降りないと駐車場に行けないでしょ」 拓斗が不安に瞳を揺らすと、修平は満足そうに微笑んで 「あなた。可愛いな。そういう顔すると。怖いの?」 「まだちょっと、熱っぽくて。ボーッとするから」 つい、恨みがましい声が出てしまった。 修平はグイッとこちらの手を引っ張って 「じゃあ、俺がこうして支えてあげる」 腰を抱き寄せられた。 拓斗は息を飲み、辺りをきょろきょろ見回して 「誰かいたら…っ」 「大丈夫。ここには誰もいない。ふらつくなら支えて歩いてあげるけど?」 ふらつくことだけが問題じゃないのだ。 というより、修平が自分とこんな風にして人前を歩くなんて……ありえない。 「でも、こんな格好、知ってる人に見られたら」 「それはまずいよね。ここは会社の連中もいる可能性あるし」 修平の真意が読めなくて、拓斗は眉をきゅっと寄せた。 「修平は……平気なの?」 「何が?」 「だから……。会社の人に、バレちゃうの。俺らの……こと」 「さあ……どうだろ。わざわざ公言する必要はないと思うけど、バレたら仕方ないんじゃない?」 以前と言ってることが違う。 拓斗は混乱してしまった。

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