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トライアングル60

拓斗自身、もともと周りにアピールするオープンな状態を好む訳ではないが、修平のちょっと神経質過ぎる過剰な隠しっぷりに不安を感じていたのだ。 喧嘩別れの原因になったのも、修平がどんどん自分に素っ気なくなって、まるで自分と付き合っているのが迷惑だと言わんばかりの態度が露骨になってきて、寂しさと不安が募っていたことが大きい。 「あなたは……オープンにしたいの?俺たちのこと。ずっと不満そうだったよね」 修平に心の中を見透かされた気がして、拓斗は内心ドキッとした。 「不満……ってことじゃなくて。俺、別に誰にでも公言したい訳じゃないけど。修平、極端に秘密主義だったから。そんなに……嫌なのかなって、思ってた。俺と、……付き合ってるのが」 「そう。あなたって、信じないよね。俺を好きだっていうわりには、俺のことをいつも疑ってる。あなたが好きな俺は、こういう人間だよ?」 修平に穏やかな口調で言われて、拓斗は黙ってしまった。 修平の言ってることは分かる気がする。 自分の理想を相手に押し付けた上で、好きだなんて言うな。 多分、そういうことなんだろう。 頭では理解しているのだ。 ただ感情が……裏切る。どうしようもなく不安になって、独りで空回りしてしまう。 反論できずに目を伏せてしまった自分に、修平はふっと柔らかく笑って 「あなたは可愛いよ。俺にはないものをたくさん、持ってる。もっと自分に自信を持てばいい。それでほとんどの不安は解決出来るはずだ。さあ、行こう。グズグズしてると夜になってしまう。もう1箇所……あなたを連れて行きたい所があるんだ」 拓斗は上目遣いに修平の顔をじっと見て、素直に頷いた。 まだじくじくと疼く身体の熱を持て余しながら、修平に引っ張られるようにして下のフロアの通路を突っ切り、階段を降りて駐車場に向かった。 ショッピングモールには大勢の客がざわめいていたが、みな思い思いの興味がある店や連れとのやり取りに夢中で、こちらなんか誰も気にしてはいない。 きっと自意識過剰過ぎるのだ。自分は。 修平の車に辿り着くと、拓斗はホッとして、まだ甘くて熱い吐息を漏らした。 「さ、乗って」 修平に促されて、オートロックの解除された助手席のドアを開ける。 もう1箇所、自分を連れて行きたい場所。 修平が言っていたのがどんな所なのか、気になる。そこに着くまでに、さっきの劣情の余韻と気だるく纒わりついている薬の効果が、もう少し薄くなっているといいのに。

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