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戸惑い揺れる揺らされている5
大きなガラス張りのドアを開けて外に出ると、周りをグルリと建物に囲まれたテラス席だった。天井はないから、見上げると四角く切り取られた青空が眩しい。
この建物は平屋建てで、表の店舗部分を含めて4つの長方形の箱が、このテラスを囲むように配置されているらしい。
広い敷地にゆったりとした間取りで作られていて、このテラス席自体も広々としている。
「うわ……なんか、すごい贅沢空間……」
拓斗はカップをテーブルに置くと、周りを見回した。
「だろ。3年ぐらい前に建て替えたんだ。前の店もいい感じだったけどな」
「ふーん。あっちは住居スペース?」
「うん。そこの二区画が牧さんのプライベートスペースだね。あっちは店の倉庫になってる」
拓斗はため息をつくと
「すごいな……。繁華街からちょっと離れてるけど、ここにこれだけの広さの住居兼店舗が建てられるなんて」
「ここの経営は牧さんの趣味。あの人の本業は陶芸家だ。でも、創作だけでなく教室なんかもやってる。他にも不動産投資とかね。いろいろと商才がある人なんだ」
拓斗は目を丸くして、ガラス越しにカウンターの牧の姿をちらっと見た。
「人って見かけによらないんだ…」
修平はくすっと笑うと
「ここの建て替えは、あそこにいる樹さんのお兄さんが担当したんだ。藤堂薫っていう建築家。雑誌なんかでもよく取り上げられてる」
「へぇ……」
拓斗が感心していると、修平は椅子を隣に引っ張ってきて腰をおろし
「さっき、どうして変な顔してた?」
「……え」
「あなた、何か言いたそうだったけど」
ニヤリとしながら顔を覗き込まれて、拓斗は焦って目を逸らした。
「や、別に、何も、」
「誤魔化さないよ。それ聞く為に、こっちに移動したんだから」
修平はぴたっと身体を寄せてきて、こちらの太腿に手を置いた。
「ちょ、修平、」
「白状して。あなた、そうやって不満を飲み込むから、後で一気に爆発しちゃうんでしょ?…ん?」
楽しげな修平の言い方に、拓斗は眉をへの字にして、じと…っと彼の目を見上げた。
「不満なんて、ないけど」
「けど?」
「修平。樹さんみたいな人、好きなのかな…って」
「……は?」
意表を突かれたような顔をする修平に、拓斗は膝の上の手をもじもじさせて
「だって……。すごい、優しい顔してた。声の感じも、いつもと違ってたし。樹さんと話してる時」
言いながら、我ながら情けなくなってきて、語尾が小さくなる。
修平は身を乗り出し、回り込むようにしてこちらの顔を覗き込むと
「焼きもち?樹さんに?あなたが?」
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