152 / 164

戸惑い揺れる揺らされている7

「どうしたの?急に」 修平が驚いたように目を見張る。勢い込んで言ってはみたものの、内心しまった…と拓斗は口を噤んだ。 ずっと心の片隅で、気になって聞きたいと思っていたことだ。でも、聞けなかった。 そんなことを問い詰めたりしたら、それこそ鬱陶しい奴だと、修平に嫌われるのが怖かった。 「ううん、いい。何でもない」 拓斗は目を伏せて首を横に振ると 「これ、美味しそう。食べていい?」 目の前の分厚いクラブサンドに手を伸ばす。 「もちろん、いいけど、」 「いただきます」 何か言いたげな修平の言葉を遮るように、明るい声でそう言うと、拓斗はクラブサンドにパクっと食らいついた。 目測で見当をつけていたよりも分厚いそれを、口に頬張るのは至難の技だった。顎が外れるほど大口を開けたのに、ちゃんと口に収まっていない。拓斗は焦って皿の上に覆い被さるようにした。端から零れ落ちそうな中身を、指で押さえる。 「どうして急にがっつくかなぁ」 横で修平が、くくく…と笑っている。 我ながらすごい顔をしているのが分かる。 拓斗はかろうじて口に頬張ることの出来た分を、もぐもぐと咀嚼してから、指の方の零れ落ちた中身の具を、必死に口に押し込んだ。 修平の手が伸びてきて、落ちかかっている具を摘みあげる。 「豪快過ぎるでしょ?これ。牧さんの作る料理はみんなこんな感じ。ワイルドなんだ。でも美味い」 修平は笑いながら、摘んだ具を自分の口の中に放り込んだ。 頬張ったもの全て咀嚼し終えてごくんっと飲み込むと、拓斗は添えられた紙ナプキンで急いで口の周りを拭いた。 テーブルに片腕をついて、自分の横顔をじっと見つめる修平の顔が目の端に映る。 少し呆れたような、でもやんちゃしている子どもを優しく見守るような、修平の柔らかい眼差しにドキドキする。 拓斗は、ふう…っと吐息を漏らし 「思ったよりこれ、分厚かった」 「うん。普通は端から用心して食べるよね。どう考えても収まりそうにないのに、あなた、いきなり真ん中からかぶりつくから驚いた」 修平の声が楽しげだ。 さっきのつまらない質問から気を逸らそうとして、ちょっと道化じみたことをやらかしてしまって、気恥ずかしい。 でも、普段あまり声を出して笑わない修平の声が、明るいテラス席に響いていて、なんだか嬉しくなった。 「や、だって。ガブッていけるかなぁ…って思って」 拓斗がちょっと拗ねたように呟いて、皿に戻したクラブサンドを指先でつつく。 「いけないでしょ、どう見ても」 くつくつと喉を鳴らして笑う修平の顔が、急に接近してきた。驚いて顔を向けた拓斗の口の端に、修平が唇を寄せる。 ……え……? ペロンっと舐められた。 ……え……えー……?

ともだちにシェアしよう!