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戸惑い揺れる揺らされている9
「修平はこの後……アパートに帰るの?」
ボリュームのあるクラブサンドをようやく食べ終えて、珈琲を啜りながらさり気なく聞いてみる。
「うん、そうだね。研修旅行に必要なもの、全部揃ったから。あなたも大丈夫でしょ?」
「う……ん。でも何だかちょっと落ち着かない。入社の時は1日だけ本社と工場見学して回ったら、後は配属先で研修だったし」
修平は珈琲を啜ると、ちょっと遠い目をして
「ああ……そっか。入社研修はたしかに泊まりじゃなかったな。でもあなた、結構恵まれてる。今回は俺が一緒でしょ。各事業所から1人だけ参加、なんてザラだからね」
拓斗はちょっとホッとした面持ちで頷いた。
「全国の事業部から集まってくるんでしょ?1人だけだったら俺、緊張し過ぎてダメかも」
修平はふふ…と吐息で笑って、珈琲カップの縁を指先でなぞりながら
「今回のは事業部で実力認められた人間ばかりだからね。みんなそれなりに経験積んでるし、情報交換出来るいい機会でもあるよ。交流会では積極的に人脈作っといた方がいいらしい」
どこか他人事のように淡々としている修平を、拓斗は横目でちろ…っと見て
「それ、修平の口から聞くの、ちょっと意外。佐々木さんが言いそうな感じ、する」
拓斗の言葉に、修平はこちらを見て
「ふーん。俺だと意外?キャラじゃない?」
「うん。や、修平が…っていうより、超ポジティブな佐々木さんがいかにも言いそうなセリフだから」
せっかく機嫌が良さそうだった修平の表情が少し曇ったような気がして、拓斗は慌てて言い直した。修平は目を細めてニヤリとして
「意外と鋭いね、あなた。そ。佐々木くんが前に言ってたんだよ、このセリフ。喫煙所で一緒になった時にね」
「あ……やっぱり」
「彼、あなたのこと、すごく気にかけてるよね」
修平が太腿をピタッと押し付けてくる。じ……っと見つめられ、拓斗はドギマギしながら視線を微妙に逸らした。
「うーん……?気にかけてるって言うか……。たまたま同じ部署に配属になった後輩だから。俺が仕事早く覚えないと、業務に支障きたすし」
「そうかな?……個人的にあなたのこと、すごく気に入ってるみたいだけど」
修平とこの手の話をするのは苦手だ。アパートに佐々木が来た時のことを、また蒸し返されてしまう。
「まさか。佐々木さんは誰にでも優しいし親切でしょ。きっと、ああいう性格の人」
「ふーん」
修平の手がさわさわと太腿を撫でる。
ガラスの向こうの2人に見られてやしないかと、拓斗はちらちら視線を向けた。
「あなた、結構、隙だらけだからね」
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