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戸惑い揺れる揺らされている10
「え?なに?」
修平がボソッと呟いた言葉がよく聞こえずに聞き返した。
「いや、なんでもないよ。そろそろ帰ろうか」
「あ……あ~うん。あの、修平。明日、東京まで一緒に行く?…でしょ?」
太腿をぽんぽんっと叩き、立ち上がりかけた修平に、拓斗は急いで問いかけた。
「ん。直行でいいって言われてるからね。会社には行かずに直接、駅行くけど。朝、早いから遅刻しないでね、あなた」
修平は微笑みながら立ち上がり、カップとソーサーを乗せたトレーを持ち上げた。
拓斗は急いで自分も立ち上がると
「あ、ねえ、修平。今夜、もしよかったら…」
「それはダメ」
言いかけた途端に遮られて、拓斗は息を飲み口を噤んだ。
修平はトレーを手に振り返り
「今夜、アパート泊めてって言うんでしょ?それは、ダメだよ」
「…っ、でも俺、」
「帰ったら、研修用の資料、目を通しておかないと。あなたがそばに居ると気が散っちゃうからね」
ピシッと言われて拓斗は目を伏せた。
「……うん。そっか。そうだよね」
「そ。仕事だよ。気持ち切り替えて」
「……わかった」
コクンと頷くと、修平の手が伸びてきて頬をサラリと撫でられた。
「うん、素直。正直ね、あなた泊まっちゃうと、またエロいことしたくなる。朝早いから起きられないと困るでしょ?」
拓斗が驚いて顔をあげると、修平は目を細めていた。その眼差しが妙に艶っぽい。
拓斗はじわ…っと頬が熱くなった。
「…エロい、こと、……って」
ドアに向かって歩き始めた修平のシャツを慌てて掴む。
「あなた、無自覚に煽るから。色っぽい顔して」
「…っそんなこと、して、ないし…っ」
「ほら、やっぱり自覚がない」
忍び笑いをする修平を拓斗は赤い顔で睨みつけた。
「違う。だって修平が、」
「俺が、なに?」
囁きながら覗き込んでくる修平の顔が近い。拓斗はうろうろと目を泳がせ、顔を背けた。
「修平が、変な薬とか、使うから……」
蚊の鳴くような声で抗議すると、修平は首を竦めて
「でもあれ、あなた好きでしょ?嫌だ嫌だって言いながら、いつもグズグズになる癖に」
囁く修平の声音が表情が、妖しい夜の空気を纏い始めた……気がする。
「修平、だめだよ。そういうこと大きい声で。向こうに……聞こえちゃうから…」
「ふふ。顔、茹でダコみたいに真っ赤。あなたってほんと、反応が素直で可愛いな。……俺には勿体ないかもね」
「……え?」
「行こう」
修平は急に妖しい雰囲気を消し真顔になると、こちらに背を向けドアの方に歩いて行く。
拓斗は熱くなってしまった頬を両手で擦ると、小走りで後に続いた。
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