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戸惑い揺れる揺らされている13

拓斗はそっと修平の顔を見てみた。すぐに視線に気づいた修平が苦笑する。 「じゃ、私たちはこれで。ご馳走様でした」 牧からお釣りとレシートを受け取って、修平は3人に軽く頭をさげてドアに向かった。 「あ、修平くん」 樹が修平を呼び止めた。ほっそりした指で、財布から名刺を1枚取り出すと 「これ。僕のプライベートの方の。何か悩み事があったら連絡して」 差し出された修平は、一瞬戸惑ったような顔をして樹の顔を見つめてから受け取った。 「ありがとうございます。それじゃ」 拓斗もぺこっと3人に頭をさげると、先に出て行った修平の後を追う。 駐車場で車に乗り込むと、シートベルトを付けながら拓斗は大きなため息をついた。 「どうしたの?緊張した?」 「緊張、っていうか、修平が変なこと、言うから」 まだ少し頬が熱い。拓斗が愚痴を零すと、修平は車を発進させながら首を竦めて 「変なこと?本当のこと、言っただけだけどね」 拓斗は開きかけた口を閉じて、フロントガラスを見つめた。 修平があの3人に、自分を恋人だと認めるような言動をしてくれたことは、素直に嬉しい。 でも、いつもとちょっと雰囲気の違う修平の様子に、戸惑ってもいる。 昨日今日と、修平の普段とは違う一面を見られた。前に付き合っていた時にはなかったことだ。思えばあの頃は、修平と自分の間には越えてはいけない壁のようなものがあって、交際中は2人だけの世界を頑なに守っていた気がする。拓斗自身、自分の性的指向を周りに公言するつもりはなかったから、それほど気にしてはいなかったのだが。 「ね、修平、」 彼らに話したという悩み事が気になって、思わず質問しかけて口を閉じた。 そういうプライベートなことを、本人が話そうとしていないのに聞くのは失礼だ。 「なに?話しかけたなら言ってみれば?あなたは言わないで抱え込むからね」 「あ……うん、や、えーと……」 ……やっぱり無理。もっとそういう話の流れになったら。 「修平は、藤堂さんたちって、どんな知り合い?」 修平はハンドルを切りながらこちらをちらっと見て 「どんなって?」 「うーん……つまり、その、親しい友人?それとも顔見知り、程度?」 「ああ。そういうこと。要するに、悩み事を打ち明けるくらい親しい相手かって?」 ずばり言われてしまって、拓斗は口をもごもごさせた。 「うん、や、ごめん、変なこと聞い」 「樹さん、思わせぶりなこと言ってたもんな。やっぱ気になるか」 「あ~……うん。……気になる、かな」

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