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戸惑い揺れる揺らされている15
赤信号で減速して車を停め、修平がこちらを見た。
でも何も答えない。
いつもの、何を考えているのかよく分からない表情で、じっと目を見つめてくる。
拓斗は内心ドキドキしていたが、敢えて目は逸らさずにいた。質問はもう零れ落ちてしまったのだ。今さら後には引けない。
修平は口を開きかけて一旦閉じ、探るような目付きになった。拓斗は緊張して、奥歯をきゅっと噛み締める。それでも目は逸らさずにいた。
「……知りたい?」
拓斗はこくんと頷いた。
知りたい、修平のことをもっと。
もっと彼の内面に近づきたい。
「嫌じゃなきゃ、話して。俺も修平の悩み、聞きたい」
だって恋人…なのだ。好きな人が何か悩んでいたのなら、相談して欲しかった。
初対面の樹にではなく、自分に。
「嫌ではないけど……」
修平は少し困ったような顔になり、それきり口を閉ざした。
信号が青になる。ゆっくりと発進させると、修平は前を見て運転しながら
「話すよ。多分、近いうちに。あなたにはいつか、聞いてもらいたいと思っていたから」
ほんの少しだけ未来の、果たされることのない約束。
開きそうで開かない修平の心。
いつもこうだ。ほんのちょっと先にこちらの希望を放り出して、そこにぽつんと置き去りにする。振り返ると修平はもう、そこにはいない。
拓斗はちょっとガッカリして、目を伏せた。
「そう。……うん、わかった。話してくれるの、待ってる」
「コンビニとか寄らなくてよかった?ほんとに」
修平の質問に、拓斗はにこっと笑って
「大丈夫。部屋帰れば、冷蔵庫になんだかんだあるから」
シートベルトを外しながら答えると、修平の腕が伸びてきた。
「……ぁ」
ぐいっと引き寄せられる。急に近くなった彼の顔にドキッとした。
「明日、モーニングコールしてあげようか?」
「大丈夫、だし。修平こそ寝坊しないでね」
「ああ。駅の改札。東口の。あそこで待ってる」
「ありがとう…翡翠の、こと。すごい助かった」
アパートの前の通りはそんなに広くない。車2台がようやくすれ違えるほどの幅だ。
拓斗は、他に車が来ないか、誰か歩いていないかと、ちらちらと視線を泳がせた。
「どういたしまして。俺も翡翠のことは気になっちゃうからね。安心した」
「うん。じゃあ、明日」
フロントガラスの先に人影が見えた。
拓斗はちょっと焦りながらそう言うと、助手席のドアノブに手をかける。
その瞬間、首の後ろに回った修平の手に力がこもり、更に引き寄せられて唇を奪われた。
「……っん、」
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