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戸惑い揺れる揺らされている16
挨拶程度に軽く触れるだけのキスじゃない。
こちらの唇をこじ開けるようにして、舌を入れてくる。
拓斗は修平の肩に手をあて、押し戻した。
「んぁ、だめ……んむ」
向こうから来る人に見られてしまう。
修平の車の窓にはスモークフィルムなんか貼っていないのだ。
まだ明るいこの時間では、丸見えになる。
忍び込む舌を押し戻し、顔を背けようとしたが、修平は首の後ろをガシッと掴んで逃げるのを許さない。
「ん、……っふ、ぅ……んぅ」
拓斗はぎゅっと目を瞑って弱々しくもがいた。
ここはアパートの真ん前なのだ。同じアパートの住人や近所の人が通るかもしれない。もし見られたら、本当にまずい。
そうは思うのだが、修平に本気モードでキスされてしまうと、簡単にスイッチが入ってしまって強く抵抗出来ない。
舌を絡め取られ、根っこを引きちぎりそうなくらい深く貪られ吸われて、のぼせたみたいになってくる。
拓斗は押し戻そうとした修平の肩に縋るように手をかけて、激しすぎる口づけに精一杯応えた。
「ふふ。ちょっと本気入っちゃったね」
口づけを解かれても、恥ずかしくて顔をあげられずに、修平の肩先に顔を埋めていると、耳元で吐息のように囁かれた。
「……信じ、らんない。誰か、見てた絶対」
「いつまでもこうしてると、もっと見られちゃうけど?」
言われなくても分かってる、そんなこと。
でも、顔をあげるのが怖い。
「ね、修平、ここ、離れて。あっちの大通りの方まで。俺、そこからゆっくり歩いて帰るから」
「……分かった。じゃ、手を離してね。あなたに抱きつかれてたら運転出来ない」
平然とした声で言ってのける修平に、拓斗は内心で言い返した。
……誰のせいだよ。修平がこんなことするから。
顔をあげないようにして、修平から手を離す。姿勢を低くして俯いたままでいると、修平はゆっくりと車を発進させた。
大通りで別れの言葉もそこそこに、あたふたと車から降りた。顔が赤い自覚があったから、俯いて目を伏せたままでゆっくりとアパートへの道を歩く。
途中、コンビニに寄るかどうか迷ったが、やめておいた。
なんだか急にドっと疲れてしまって、早く部屋に戻って横になりたかった。
昨日今日と、目まぐるしく過ぎていった2日間だった。修平と一緒に過ごしたこれまでの日々の中で、一番濃密な時間だった気がする。
彼の知らない一面や、交友関係を知ることが出来た。
修平との間には、まだまだ見えない壁があるとは思うが、こうやって少しずつ近づいていけたらいいのかもしれない。
……変に焦っちゃうの、ダメかもな。
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