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好きだから。この一言で済ませられるなんて知らなかった。 自分と片谷とでは違いすぎる──。 「……おまえはなんでそんなに」 「……?」 たった一人のためにそこまで固執できるんだろう。 不思議でたまらない。 せめてその理由でも詳しく言ってくれれば納得出来るのに、こいつは好きだからとしか言わないから。 「……わからないなぁ……」 「どうしました? なにか困ったことでも」 「いや、平気」 どんな理由にせよ、情けないところを見せるわけにはいかない。 だが、未だに片谷のことがわからずにいる。 片谷が立ち上がる。椅子が床と摩擦する独特な音が教室に響き渡ったところで、忍はふと思い出した。 「あっ、片谷!」 「はい?」 「今日……かっこよかったぞ」 ああ、なんでこんなことを言ってしまったのだろう。 急に恥ずかしくなり、口元を隠しながら俯くと片谷の反応が気になってしまったので顔を上げる。 見た瞬間、後悔した。 そんな風に微笑まれて。慈愛に満ちた顔で。 ──俺を見つめないで。

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