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呆然としていると、その男子がため息を吐いて去っていってしまいそうだったので、自分でもよくわからないか何故か引き留めてしまった。 『あ、あの……待って!』 『え?』 その男子は驚いたように目を見開き、片谷の顔を見た。それが忍だった。 その頃の忍はまだ眼鏡をしていたが、眼鏡をしていてもかなり綺麗な人だったのをよく覚えている。 ああ、これが一目惚れかと思った。 一歳しか違わないのに、年上の人は何故か大人びて見えてしまうものだ。 『……ど、どうした? なにかあった?』 あんなに冷たい態度で振っていたのに、そのときとは全く違い、柔らかく温かみのある声が更に印象をよくしていた。 だから、なんとかして少しでも会話したいと思った。 『実は、はぐれちゃって……迎えに来てくれるまでここにいてくれる?』 少し不安げな顔をしてそう言うと、忍は優しく微笑んだ。 もちろん家の人間が片谷のことを迎えに来るのは知っているし、はぐれたというわけでもないけどこの人なら信じてくれると思った。 『……うん。俺でいいなら』 この人、自分のこと俺って言うんだ。 もっと知りたい。この人と仲良くなりたい。 ブランコまで誘導し、質問してみることにした。 『お兄さん、名前はなんていうの?』 『俺? 大宮忍』 『おおみや、しのぶ』 かっこいい名前だと思った。この人にぴったりだと。 忍も訊き返してくるかと思ったが、名前を訊くようなことはせず別のことを訊いてきた。 『えーと……もしかして、さっきの見てた?』 『……告白されてたとこ?』 『ああ……うん』

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