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『……そうだ、お兄さん』
片谷はポケットの中からネックレスを取り出した。
今日のパーティでつける予定だったものだ。
『これあげる』
『……へ?』
『僕のこと……忘れないでほしいから。いつかまた会いに行くから!』
自分でもなにを言っているのかわからなくなった。忍も困り果てた顔をしていたし。
だが、忍は受け取ってくれた。
『……うん、ありがとう。いつかまた会えるといいね』
『……さあお坊ちゃま行きますよ! もう、お父さまのことを困らせてばかりいて……!』
手を引かれる。片谷は忍に向かって手を振った。忍も振り返してきてくれた。
この出来事があったから、片谷は変わることが出来たのだ。
忍に見合う男になれるように。好きになってくれるように。思い出してくれるように。
もうネックレスは持っていないと思っていたが、忍の物持ちがいいから丁寧に保管されていたのだろう。
忍がこの高校にいるというのは、偶然知った。
父親からこの高校を勧められ、ホームページを調べると制服紹介のところで忍がいたのだ。
最初は、ただ似ている人かと思った。だがなにか惹かれるものを感じたので使用人に調べさせると案の定忍だということがわかった。
こんなことを忍に話すと、引かれてしまうだろうか。
「……だから、俺は忍先輩を諦めるわけにはいかないんだよ」
「まあ、頑張れ? 難しいとは思うけどな」
視界の端では真緒と忍が仲良さそうに話している。だが、あの男は忍のことは恋情的には好きではなさそうだ。
揶揄うのが楽しいから一緒にいる、という感じか。
交流会やパーティなどでいろんな人間は大量に見てきた。
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