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ジャージの腕まくりをする。自分のそんな姿ですら様になるようで、黄色い声が聞こえてきた。
自分がかっこいいという自覚は十分すぎるほどある。だからこそ、そんな意識すら出てしまうのだ。
「忍せーんぱい」
「なに」
「ちょっとでいいので、俺の引き立て役になってくれません?」
「……はーぁ?」
「俺はかっこよく見られる。あなたは可憐なイメージが更に足される。ギブアンドテイクでしょ」
そのままはにかみ、前に向き直る。きっとこの人なら損得で動くから、片谷が期待するよりずっといいことをしてくれるはず。
そんな片谷の思惑は見事に的中したようで。
相手チームの二年生が片谷を狙ってボールを投げてきたとき、わざと忍が当たりに行った。
忍にボールを当てさせるわけにはいかない。
そんな片谷の本能がボールの軌道を察知して目で見るよりも身体がいち早く動いた。
おかげで忍に当たることなくボールを取ることが出来た。ふと忍のことを見ると悪い笑みを浮かべている。
その顔を見て、周りに見せつけるためだとかそんな卑しい思惑は一切頭から消えて、純粋にかわいいと思って頭を撫でてしまった。
忍が唖然とした顔をする。
それに少し遅れてありとあらゆる声が聞こえてきた。
「キャーーーーッ!」
「あっ、ああ頭……な、な撫でてるぅ!」
「サイコー!」
「きっ、来てよかった……! ああ、尊い……!」
やっちまった。
まあ、逆に考えて牽制になるが。
牽制になるなら全然よしとしよう。
「……ばっかやろ……!」
忍の憎らしさ全開の声に、つい破顔する。かわいすぎるのだ。その顔と声が。
──誰にも渡したくない。
「先輩」
「なに」
「あとでご褒美あげますね」
「っ!?」
「上手に出来た、ごほうび」
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