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「なんて言うのかなー……心から笑ってないっていうか。それは俺もだけど」 「心から、ですか。まあ……確かにそうかもしれないです。なんだろう……小学生のときとかに比べたら笑うことは減りましたね」 なんて表せばいいのかわからないが、例えるなら現実を、本当のことを知ってしまったというか。 人を好きになるということ。人に嫌われてしまうということ。いろんな人がいるということ。自分の望み通りにはいかないということ。 今、自分は笑えてるのかとか、余計なことばかり考えてしまう。 気づいたそのときには、既に感情が欠如していたのかもしれない。 「俺、笑えてない?」 「……笑ってる、けど……笑えてないよ」 忍の言葉に、つい。 「……じゃあ、傍にいさせてよ」 ──なんて言えるはずもなく、心の中で秘めておくだけに留まってしまった。 言えたらどれだけ楽か。 言えてしまったらどれくらい重い言葉になるのか。 「……先輩」 「どうした」 「好きって……苦しいね」 「は?」 なんでかわからないが、忍の目を見て言うことが出来なかった。 目を見たら感情が爆発してしまいそうで。 なにかが消えて失くなって、終わってしまいそうで。 忍からしたら変な奴に見えているだろう。だって、忍は覚えていない。片谷と交わしたあの言葉を。やりとりを。 だからなんでこんなに好意を抱かれているのかきっとわかっていない。 でも、わかってほしい。 人を好きになる悦びを。 人を好きになる苦しみを。 人を好きになる醜さを。 ……どうしようか。 今、猛烈に忍のことを抱きしめたい。 「……なぁ片谷」 「なんですか?」 平然を装って忍に応じる。忍に、自分の弱さを知られてはいけない。 「おまえは……壊れるなよ」 「え?」 「そのままでいろ。おまえは」 「……どう、いう」 「だから……変にひねくれたり、傲慢になるんじゃなくて、今のまま」 「……」 「もしその保証が出来ないなら、俺はおまえのことを好きになってやらない」

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