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──あなたは……狡い。
そんなの、『もしおまえが今のままのおまえでいるなら好きになってやる』と言っているようなものではないか。
本当、この人は自分の予想していたはるか上を超越していく。
もっと好きにさせるなんて、狡い。
「……ここです」
「……ここって」
目的の場所につく。
そう、ここは。
「アイス屋……だよな?」
「はい。好きなアイス選んでいいですよー。奢ります」
「おっまえ、ご褒美ってこのことかよ!」
月に一回だけ食堂に出張出店される有名アイスクリームチェーン店だ。今は部活動の時間なので生徒も少ない。
この情報は教師から入手したものだ。
「あれ、もしかしてえっちなやつ想像しちゃいました? 先輩が望むならしてあげても……」
「うっっせー! あー騙された……」
「騙したなんて人聞き悪いなぁ。先輩が勘違いしたんじゃないですか」
「やっぱ嫌いだ……」
そう言いつつちゃっかりメニュー表を見ている忍。片谷もそれを覗き、店員を呼び寄せたところで注文した。
ポケットから財布を出し、英世を出す。
忍の分と自分の分が来たところで二人席に座る。アイスなんて何ヶ月ぶりだろうか。
「いただきまーす」
さっきは憎まれ口を叩いていたというのにすっかり上機嫌だ。
これでは少しばかり不安になるな。
注文したバニラのアイスをスプーンで掬って口に運ぶ。まろやかな口当たりと優しい味が絶妙にマッチしていて、美味しい。
忍はチョコミントとチョコのダブルを注文したようで、美味しそうにチョコミントのアイスを食べていた。
「本当に好きなんですね……チョコミント」
「ん。食う?」
「えっ、遠慮しときますね」
「そう。一口ちょーだい」
忍がスプーンを差し出してきて、バニラのアイスを一口大掬った。
まさか忍から「一口ちょーだい」という言葉が出てくるとは思わなくて、つい顔がにやけてしまう。
情けない顔を見られたかと思ったが、忍はアイスに夢中なようだった。
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