75 / 131

[4]-17

──あなたは……狡い。 そんなの、『もしおまえが今のままのおまえでいるなら好きになってやる』と言っているようなものではないか。 本当、この人は自分の予想していたはるか上を超越していく。 もっと好きにさせるなんて、狡い。 「……ここです」 「……ここって」 目的の場所につく。 そう、ここは。 「アイス屋……だよな?」 「はい。好きなアイス選んでいいですよー。奢ります」 「おっまえ、ご褒美ってこのことかよ!」 月に一回だけ食堂に出張出店される有名アイスクリームチェーン店だ。今は部活動の時間なので生徒も少ない。 この情報は教師から入手したものだ。 「あれ、もしかしてえっちなやつ想像しちゃいました? 先輩が望むならしてあげても……」 「うっっせー! あー騙された……」 「騙したなんて人聞き悪いなぁ。先輩が勘違いしたんじゃないですか」 「やっぱ嫌いだ……」 そう言いつつちゃっかりメニュー表を見ている忍。片谷もそれを覗き、店員を呼び寄せたところで注文した。 ポケットから財布を出し、英世を出す。 忍の分と自分の分が来たところで二人席に座る。アイスなんて何ヶ月ぶりだろうか。 「いただきまーす」 さっきは憎まれ口を叩いていたというのにすっかり上機嫌だ。 これでは少しばかり不安になるな。 注文したバニラのアイスをスプーンで掬って口に運ぶ。まろやかな口当たりと優しい味が絶妙にマッチしていて、美味しい。 忍はチョコミントとチョコのダブルを注文したようで、美味しそうにチョコミントのアイスを食べていた。 「本当に好きなんですね……チョコミント」 「ん。食う?」 「えっ、遠慮しときますね」 「そう。一口ちょーだい」 忍がスプーンを差し出してきて、バニラのアイスを一口大掬った。 まさか忍から「一口ちょーだい」という言葉が出てくるとは思わなくて、つい顔がにやけてしまう。 情けない顔を見られたかと思ったが、忍はアイスに夢中なようだった。

ともだちにシェアしよう!