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「先輩が……かわいい……」
「はぁ?」
「あっ、すみません、心の声が」
片谷が顔を少しだけ赤くし、口を大きい手で覆った。
そんなに制服と私服とでは違うのだろうか。
「そんなに違う?」
「そう、ですね……雰囲気っていうか。あー、髪型が違うからかな、でもかわいいです」
「……」
さらっと言ったよ。
そういう言葉は女性に向かって言えばいいのに。
さて、いつまでもここにいるわけにはいかないので早速寮を出ることにしよう。
「……バスじゃなくていいのか?」
「はい。他の人に先輩のかわいい姿を見せるわけにはいきませんから。バスじゃなくてよかった……」
何回もかわいいかわいいと言われたら本当にそうなのかと思ってしまう。
それだけはまずい。
そこまで真に受けず、向こうがさらっと言うのならこちらもさらっと流そう。
「守衛さんに外出許可取ろうと思ったんですけど、名簿に名前書くだけでいいんですね」
「うん。基本的に緩いからな。必ず寮にいないといけないってわけでもないし、ホテルとかに泊まるのもオーケーだから」
「ふぅん……ま、ホテルって言ってもラブホテルですかね?」
「そうだろ。てか、帰省かラブホかのどっちかしかないだろ」
十一時以降は特別な用事がない限り部屋から出ることは禁止されているが、あらかじめ許可を取っておけば外泊は平気なのだ。
基本的に二人部屋だが、成績がいい者は希望して一人部屋になることが出来る。
忍は生徒会入りがこの時期で既に決定していたため、一人部屋を希望した。
「あの車です。乗りましょうか」
「ん」
片谷にさりげなくエスコートされ、車に乗り込んだ。
レンタル料だとかそういうものが一切かからないので感覚が麻痺してしまいそうだ。
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