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「……ありがとうございました」 車から降り、乗ってきた車を見届けたところで片谷が微笑んだ。 「二人きりですね」 「変な言い方するな」 「まあまあ、いいじゃないですか。それより、先輩映画見ません?」 「映画? ……あっ!」 片谷が二枚分のチケットを取り出した。そのチケットは今話題になっているミステリー小説が題材となっているもので、実は見てみたいと思っていたのだ。 片谷が気が合いそうとか言っていたが、本当にそんな気がする。 「気になってたんです、これ。実は先輩も気になってたでしょ?」 「……うん」 「じゃ、行きましょうか。よかったー、先輩もこれ知ってて。小説も持ってるんですよね」 「俺も持ってる」 「ほんと? じゃあ更に映画楽しめそうですね」 さっきまで苛ついていたのに、それが嘘みたいに笑みが零れてしまった。 片谷と接していると、自分の思考が本当に子どもっぽいんだなと思ってしまう。 いや、片谷の思考が大人なのか? 「片谷、もう映画館行く?」 「行きますよー。結構人多いですね……手じゃなくていいですけど、どっか掴んでて」 「ん」 それに特に変な意味はないとわかっているから、あまり躊躇わずに片谷の服の袖を掴む。 すると周りにいる女子たちにかなり見られてしまった。 なにか互いに興奮した様子で「やばいやばい」だの「かわいい……」だの話している。 「……おまえってさ、結構周りからの視線に慣れてる?」 「んー……周りからの視線っていうのを意識したことないのであれなんですけど、慣れてる……んですかね?」 「ふーん」 あ、少し素っ気なくしすぎたかも。 そう思い片谷の顔をふと見上げると、何故か優越感に浸っているような顔をしていた。 「あの忍先輩をこうやって独占できるなんて……嬉しいです」 「……」 「もっと俺のこと知って、好きになってくださいね」

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