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好きになってくださいね、って。
そんなことを言われて素直にはいと頷けるわけないだろう。
なんだか、自分のペースを乱されている気がする。
片谷に飲まれて、そのうち消えて失くなってしまいそうだ。
「先輩、どうかしましたか?」
「……なんで」
「なんか気難しい顔してるから。……あー……俺の所為?」
「そうに決まってるだろ! もうなんか……よくわかんない、おまえのこと」
前髪をくしゃくしゃと空いている方の手で乱す。
黒い髪は忍の手に従って絡まってしまうが、片谷はこの髪のようにはいかない。
年下のくせに、主導権を片谷に握られている。
だから忍はそれに抗えない。
首にずっと首輪がつけられていて、首輪に括りつけられた紐で引っ張られているような感覚。
あ、なんかその構図想像したら腹立ってきた。
「……まだ着かないの?」
「そこ曲がったらすぐですよ。どうせなら手ぇ繋ぎましょうよ」
「千円」
「結構安いなぁ」
にこっと微笑んだかと思えば手を握られる。思いのほか温かくて手が大きくて、やっぱり男なんだなと思うのと同時に自分とは違う手に少しどきどきしてしまう。
手を繋いだことにより女子の注目は更に高まってしまったが、この際どうでもいい。
あと二十何日なのだから、少しくらい妥協してもいいだろう。
「ほら、ここですよ」
「でかいなー」
「そうですね。先輩映画見ながらなにか食べたりする?」
忍の呟きに、片谷がそう話しかけてくる。
その質問に忍はすぐに答えた。
「うん。マニアとか『映画で飲食は邪道』って言ってたりするけど俺はそうは思わないから」
「俺も。どっちにします? ポップコーンかポテトか」
「ポップコーンのキャラメル」
「ん、いいですね。俺もキャラメル頼むんですよー」
食べものが売っている列に並び、話していると前に並んでいる女子二人がチラチラとこちらを見てくる。
だが片谷も気にしていないようだし、さほど不快にも思わないので目を合わせないようにしていると。
「あのぉ……すみません」
「!」
──女の子が……話しかけてきたっ!
中々顔は整っている。だが、高校生というわけではなさそうだ。
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