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人々の喧騒が嘘みたいにこの道は静かだ。柄が悪い輩も一切いなさそうだし、品がある。 こんなところで片谷が一人で佇んでたら、様になるんだろうな。 「静かですね」 「うん」 「疲れてないですか?」 「平気」 相変わらず人は通っていない。片谷との会話も最小限で、なのに心地がいい。 あんなに最初は片谷のことを拒絶していたのに、今では何故か片谷といるのが苦ではない。 寧ろ、楽だ。 生徒会補佐という肩書きに縛られないで過ごしていられる。 こういうときに、思ってしまうんだ。 片谷を本物の彼氏にしてやってもいいかもしれないって。 「ここ通り抜けたら店に着きますよ」 「あ、そうなんだ。すっげ楽しみ」 「はは、俺もです」 片谷が忍の方を見て、にこっと微笑んだ。う、久しぶりの王子様スマイルだ。 なんて言うんだろう。本来なら年上である忍がかっこつけるべきなのに、それすらも叶わずに片谷に全てを委ねてしまっている。 こういうのを、気楽って言うんだろうな。 この学園に来て初めてかもしれない。こんな風に思えるのは。 心休まる場所があるのは忍としてもかなり楽だし、なにかを繕う必要もなくありのままでいれる。 ──ああ、俺……楽しんでるんだなあ。 この楽しいという気持ちが好きに直結するのかは知らない。 でも、これをもし好きというならば。 ……自分はそれを容易く受け入れてしまいそうで、怖い。 なにが怖いのか、そう聞かれてすぐには答えられない。でも漠然と、浮かんでくるような気がする。 「……先輩、どうしました? 眉間に皺よってますよ」 「えっ、まじ」 眉間をぐりぐりと人差し指で抉られる。と言っても全く痛くないけれど。

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