88 / 131
[5]-11
人々の喧騒が嘘みたいにこの道は静かだ。柄が悪い輩も一切いなさそうだし、品がある。
こんなところで片谷が一人で佇んでたら、様になるんだろうな。
「静かですね」
「うん」
「疲れてないですか?」
「平気」
相変わらず人は通っていない。片谷との会話も最小限で、なのに心地がいい。
あんなに最初は片谷のことを拒絶していたのに、今では何故か片谷といるのが苦ではない。
寧ろ、楽だ。
生徒会補佐という肩書きに縛られないで過ごしていられる。
こういうときに、思ってしまうんだ。
片谷を本物の彼氏にしてやってもいいかもしれないって。
「ここ通り抜けたら店に着きますよ」
「あ、そうなんだ。すっげ楽しみ」
「はは、俺もです」
片谷が忍の方を見て、にこっと微笑んだ。う、久しぶりの王子様スマイルだ。
なんて言うんだろう。本来なら年上である忍がかっこつけるべきなのに、それすらも叶わずに片谷に全てを委ねてしまっている。
こういうのを、気楽って言うんだろうな。
この学園に来て初めてかもしれない。こんな風に思えるのは。
心休まる場所があるのは忍としてもかなり楽だし、なにかを繕う必要もなくありのままでいれる。
──ああ、俺……楽しんでるんだなあ。
この楽しいという気持ちが好きに直結するのかは知らない。
でも、これをもし好きというならば。
……自分はそれを容易く受け入れてしまいそうで、怖い。
なにが怖いのか、そう聞かれてすぐには答えられない。でも漠然と、浮かんでくるような気がする。
「……先輩、どうしました? 眉間に皺よってますよ」
「えっ、まじ」
眉間をぐりぐりと人差し指で抉られる。と言っても全く痛くないけれど。
ともだちにシェアしよう!