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「……やっぱり、だめですか……?」
片谷が狙いすましたようにしょんぼりと残念そうにそう言った。
そんなこと言われたらさあ。
拒否しにくくなるだろう、誰だって。
「……今日だけだぞ」
「やった」
「一人部屋?」
「はい。先輩忘れました? 俺一年の中で一番頭いいんですよ。多少の融通は利きます」
「……」
ああ、頭がいい奴は本当に得だよな。
なんとなく頭を抱えたくなり、それを我慢するためにため息を吐くと心配された。
「ん、どうしました?」
「いや。なんでも」
「そうですか。俺楽しみすぎて飛べそうです」
「……」
にこにこと子どものように笑いながら片谷がそんなことを言った。たかが一晩部屋に泊まるだけなのに大袈裟な奴だ。
そういえば、とふと忍は思い出す。
こいつはどうして自分のことが好きなのだろうか。
告白はされたけど、自分のことを好きになった理由までは聞いていない。
「……片谷」
「はい?」
「おまえさ、俺のこと好きとか言ってたじゃん」
「……はい」
「どうして、俺?」
そう忍が言葉を紡いだ瞬間、本当に少しだけ、片谷が片眉をぴくっと上げた。
答えるような気配はなくて、片谷は考えるように前を向いて静かに息を吐いた。
──言えないのか?
自分が他人より顔が優れていることは知っている。片谷が人のことを見た目で決めるような人間ではないということも、最近わかってきたような気がした。
何故か、鼓動が早くなる。
そして片谷がゆっくり口を開いた。
「……それを俺が言うなら、それなりの対価が欲しいですね」
「は?」
「忍先輩が俺にもう一度キスをしてくれるなら、言ってあげますよ」
片谷が酷く大人びた顔でそう告げてきた。
どうして、キスを求めるのだろうか。
そんなに言えなくて、言いにくいこと?
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