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握りしめた手が震えた。 「どうして?」 「……どうして、って。うーん、そうですね。まだ言うタイミングじゃないから」 片谷が目だけで運転手のことを見た。セックスという言葉は普通に言えるくせに、こういうことは言えないのか。 まあ、そうだろうな。 しょうがなく、そこからは世間話をして学校の寮に着くのを待った。 その間、忍の心臓はずっと忙しなくばくばくと大きく動いていた。 ***** 「さ、どうぞ」 「……お邪魔します」 片谷にドアを開けられ、片谷より先に部屋に入った。入った瞬間、柔らかい香りが充満した。 片谷が部屋の鍵を閉め、忍より先に靴を脱いで忍のことをエスコートする。 忍の部屋とはやや形が異なっていて、不思議な感じがした。 そういえば、他の誰かの部屋に泊まるのは初めてかもしれない。 「……座っててください。お腹空いたでしょ?」 「うん」 「ご飯作るので、その間お風呂入っててください。入浴剤入れてもいいですよ」 腕まくりをしながら片谷が忍の方を見て言った。いつもは見えない筋肉質な肌が覗いて、少しどきっとしてしまう。 それから逃れるように着替えを借り、バスルームへ行った。 鏡で自分の顔を見る。 見て驚いた。 自分の顔が見たことないくらい赤くて、熱くて、目が潤んでいて。 「……え……?」 つい、気づいたときには声を出していた。 こんな、恋する女の子のような顔をして。片谷と話していたのか? 片谷はこんな自分をどう思った? 考えれば考えるほど恥ずかしくなってくる。

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