92 / 131
[5]-15
握りしめた手が震えた。
「どうして?」
「……どうして、って。うーん、そうですね。まだ言うタイミングじゃないから」
片谷が目だけで運転手のことを見た。セックスという言葉は普通に言えるくせに、こういうことは言えないのか。
まあ、そうだろうな。
しょうがなく、そこからは世間話をして学校の寮に着くのを待った。
その間、忍の心臓はずっと忙しなくばくばくと大きく動いていた。
*****
「さ、どうぞ」
「……お邪魔します」
片谷にドアを開けられ、片谷より先に部屋に入った。入った瞬間、柔らかい香りが充満した。
片谷が部屋の鍵を閉め、忍より先に靴を脱いで忍のことをエスコートする。
忍の部屋とはやや形が異なっていて、不思議な感じがした。
そういえば、他の誰かの部屋に泊まるのは初めてかもしれない。
「……座っててください。お腹空いたでしょ?」
「うん」
「ご飯作るので、その間お風呂入っててください。入浴剤入れてもいいですよ」
腕まくりをしながら片谷が忍の方を見て言った。いつもは見えない筋肉質な肌が覗いて、少しどきっとしてしまう。
それから逃れるように着替えを借り、バスルームへ行った。
鏡で自分の顔を見る。
見て驚いた。
自分の顔が見たことないくらい赤くて、熱くて、目が潤んでいて。
「……え……?」
つい、気づいたときには声を出していた。
こんな、恋する女の子のような顔をして。片谷と話していたのか?
片谷はこんな自分をどう思った?
考えれば考えるほど恥ずかしくなってくる。
ともだちにシェアしよう!