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「……本当、無理しなくていいんですよ? 嫌ならなにも……」
片谷が風呂からあがってやや濡れた髪のままソファに座った。忍は床の座布団の上にちょこんと座っている。
奥にはベッドが置いてあるのが見え、ドアを閉めたら見えなくなるがドアが開いたままなのでよく見える。
片谷らしいシンプルなネイビー色の布団だ。
忍はそれを一瞥してから片谷に向き直った。
「あのさ、片谷。一つ聞いていい?」
「はい」
「……おまえは、まだ俺に好かれてないとでも思ってる?」
そんな忍の問いかけに、片谷は珍しく狼狽した。
図星らしい。
不思議な奴だな、と忍は心の中で思う。無理やり連れ出しておいて、自分に自信がないようで。
忍の周りにそういう人間はいなかった。自分のことしか考えておらず、自己中心的な人間が多かった。
片谷はそうなようで違う。ちゃんと忍の望みも叶うかどうかは別として聞いてくれる。
忍はそんな片谷に惹かれるとまではいかなくとも嫌いではなくなっていた。
「どうなの」
忍が重ねて聞くと、観念したのか片谷は素直に言い始めた。
「正直に言うと、そうです。なんだろう、なんて言うんだろうな……」
片谷が言葉を切った。意図的にではなく、本当に。
悩むその姿がいつもより大人びていて。
どくん、と身体のどこかがそう鳴った。
「嫌われてはないんだろうなというのはわかるんですけど、逆に好かれてるのかと聞かれると答えられませんね。今はまだ一方的に俺が好きなだけですし」
「……」
「俺、なんとなくわかるんです。人が俺を好きになったタイミングが」
だろうな。
片谷は今まで何人もの女の子に告白されてきたのだろうから。
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