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「……じゃあ、キスしてくださいよ」
「え?」
「俺はキスして欲しい。先輩は知りたい。ちょうどいいじゃないですか」
片谷が忍のことを追い詰めるように顔と顔の距離を近づけてきた。
息が、かかる。
鼻に、口に。
茶色く色づいた瞳には忍が映っている。
白く陶器のように滑らかな肌。そこには傷一つとしてない。
そして──くちびる。
赤くて、艶めいていて、かさかさしていなくて。まるでなにかの果実のようだ。
本当に、いい男だと思う。
そんな男が、自分のことを好きだなんて。
「……ほら」
片谷がキスを急かす。その顔はいつもと同じなのに、なにかが違う。
なにか、ってなに?
……わからない。
「できないんですか?」
「っ……」
忍の頬に大きく角張った手が添えられた。忍の肌も片谷に負けないくらい、いや、片谷以上に白く滑らかだ。
髪が交わる。
それは、どれだけ自分と片谷が近いのかを明らかにしていた。
片谷の手が震えている。
どうしてだろうか。
別に初めてじゃないのに。
こいつとはしているのに。
ああ、もうどうでもいい──
忍は、片谷のくちびるに自分のものをくっつけた。
それは、所謂キスというもので。
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