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「忍ってさあ、実際片谷くんのことどう思ってるわけ?」
晟が弁当を食べながら、でも食べ物は飲み込んでからそう言ってきた。
一瞬言うのは躊躇ったけど、この際。
素直になるという意味でも、言うか。
「悪い奴ではないと思う。あいつの印象は、明らかに俺のなかでよくなっていってる」
「……」
「けど……まだ不安なんだ。片谷は俺に言ってないなにかがあるんじゃないかって。本当は……俺のこと好きなんかじゃないかもって」
片谷のあの顔を思い浮かべながら、忍は話をする。
胸の昂りが、抑えきれないくらいになっていることを晟もきっと知っているのだろう。
わかっていて、忍に訊いている。
忍の言葉でそれを聞き出したいんだろう。
「……でも、それは違うって思った。だってあいつ……俺のこと大好きなんだもん。態度で丸わかりで……」
つい、口元が弛んでしまった。
手を弄りながら話す。暖かい、柔らかい風が頬を撫でていくのを心地よく感じながら、頭に片谷を思い浮かべながら。
「あんな、真っ直ぐな奴初めて見た。でも、俺は汚しちゃいけないって……曲げてしまったらいけないって思ってたのに」
思っていた、のに。
「汚した。無理やり、犯させた」
きっと片谷は、自分が無理やりしてしまったと思っているのではないだろうか。
それは、真逆だ。
忍が片谷に言葉を言わせて、やらせて、突っ込ませたのだ。
汚した。片谷を、傷つけて、思い切り痛めつけて、その開いた傷口を抉ったのは忍だ。
「俺は……あいつのことを好きになったらいけない。好きにならないようにしないといけない」
「……はあ?」
忍のそんな言葉に、晟が大きくそう言った。
呆れたように、でもどこか少し嬉しそうに。
忍がわからないでいると晟がため息を一つ吐いてから言った。
「そんなん、もう好きになってるようなもんじゃん」
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