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「だってよ、片谷くん」
「……え?」
晟が屋上の入り口を向いてそう言った。
するとそこには……会いたいと思ってしまった、片谷が立っていた。
「……晟、おまえ」
「いやぁ? おまえら見てたら焦れったくてさー。しょうがねえから俺が恋のキューピッドになってやろうと思って、こっそり片谷くんのこと呼び出したわけ」
「なっ……」
「ここまで上手く行くとは思わなかったなー、うん。我ながら天才だわ」
晟がしたことに驚きを隠せずに、口を開けたままにしておくと晟が忍の頭をぱちんと叩いてくる。
それが結構痛くて、晟のことを睨みつけると恨めないくらい爽やかに笑っていた。
「おら、しっかりおまえなりにけじめつけてこいよ。男だろ?」
「……わーったよ」
「この借りは重いぞ。かわい子ちゃん紹介しろよー」
晟がしっしっとぞんざいに扱ってきた。
忍は少し晴れた気持ちで片谷の元に向かう。
「……片谷」
「先輩、あの……」
「行くぞ」
自分から、片谷の手を握った。
まだ期限はたっぷりあるとか、賭けに負けるとかそんなのどうでもいい。
もう……正直になろう。
忍が片谷の手を引くという異様な光景を、すれ違う生徒全員が驚きの目を向けるなか外へ向かう。
その途中。宇月と篠田に会った。
宇月は忍と片谷のことを見た途端片方の口角だけをにっと上げて、忍の右肩をポンポンと叩いてくる。
「……頑張れよ」
とだけ囁き、逆方向に歩いて行った。
どこまでも男らしいひとだ。
忍が片谷を連れて行ったのは、あの日。片谷に告白をされた場所。
全くひとがいなくて、本当にそういう場所に適している。
よく、こんな場所を見つけたな。
「先輩、あの……」
「なんだ?」
「具合、大丈夫なんですか? 俺、ずっと心配で……」
片谷が首をしきりに摩りながらそう言う。
忍は少し微笑んでから、答えた。
「平気。おまえが心配するほどじゃねえし」
「っ、でも」
「まだ逸らすのか?」
話を逸らそうとする片谷にそう言うと、片谷は動きを止めて忍の顔を真っ直ぐ見つめた。
──ああ……この、瞳が好きになったんだな、俺。
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