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〜十五年後〜 「優都、資料です」 「ありがとうござっ……ありがとう、忍さん。できれば社長って呼んで?」 「お断りします……ああ、もう定時すぎてるからいいだろ?」  片谷は、父親の跡を継ぎ社長となり、忍はその専属秘書となった。  忍はあの綺麗な見た目に大人の色気が足され、社内でもかなり人気なのだ。  片谷としてはそれは納得いかないのだが、それでも夜は乱れる忍を存分に堪能できるので、特に不安要素はなくやってこれている。  もちろんつき合っているということがバレてしまったら大変なので、社内ではただの社長と秘書なのだが。 「忍さーん、疲れた……癒してくださいー……」 「うるせえ、社長のくせに……もう……」  こうやって弱音を吐けば、忍は優しくしてくれるのだ。  ほら、片谷にキスをしてくれた。 「ありがとうございます」 「……くそ……もー、甘やかす俺も俺だよな」  忍が帰る準備をしようとするので、片谷も慌てて椅子から立ち上がる。  忍は片谷のスーツ姿が好きなようで、視線を感じるときにはいつも忍は片谷のことを見つめていた。  片谷も、忍のスーツ姿は色気があって好きだ。 「あ、優都。このあと晟と飲みに行くけど……一緒に来るか?」 「行きます! いいんですか?」 「もちろん。ていうか、晟がおまえと話したがってた」  忍がスーツの上着を着て、社長室を出ようとしたのでそれを追いかけた。  時々通りがかる社員たちが片谷に向かって挨拶をしてくる。それに返しているとたまにからかってくる輩もいて、それに適当に返事をすると忍が呟いた。 「つき合ってるみたいですね……って、つき合ってるっちゅうに」 「はは……まあ、言うわけには行きませんから」  本当なら全社員に忍とつき合っていることを言いふらしたいくらいだが、残念ながらそれは自重しなければいけない。

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