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「……あの、晟さん」
「なんだ?」
「晟さんって、高校生のとき忍さんのこと好きでしたよね?」
「……」
これは、忍とつき合い始めたときになんとなく思ったことだった。
今まで訊けなかったが……どうなのだろう。
「もう昔の話だよ」
あ、好きだったんだな。
恋愛沙汰になると隠すのが上手いのは、高校生のときからだったのか。
「やっぱりそうでしたか」
「すげえな。俺、誰にも言われなかったのにさすが片谷くんだわ」
「あはは……結構気になってたんです」
ふとしたときの忍への目線とか、態度とか。
それが完全に好きなひとへの物だったので、やっと訊けてよかった。
こんなにすんなり言ってもらえるとは思わなかったが。
「どうして、俺に譲ってくれたんですか?」
「……んー? それはさあ、おまえ……」
ビールをぐいっと飲んでから晟が言った。
その姿は立派なおじさん一歩手前と言ったところだろうか。
──いや、そんなん言ったら俺もおじさんみたいなものなんだろうけど。
「忍、俺より片谷くんと一緒にいた方が楽しそうな顔するんだよ」
「……え?」
「なんて言うんだろうな。生き生きしてた。君と一緒にいた方が」
晟の話を聞きながら唐揚げを口の中に放り込む。
適度な塩加減と、衣の香ばし加減が美味しい。
「俺、自分の要望とかより相手がどう思うかっていうの重視だからさあ。告白して困らせるより見守った方がいいじゃん?」
「……」
「あと、俺は別にゲイってわけではないしね。高校卒業して、女の子のありがたみがわかったよ」
晟は、そんなことを考えながら忍といつも一緒にいたのか。どうやったら落とせるのか、とかそんなことばかりを考えていた自分とは大違いだ。
歳は一つしか違わないのに、こんなにも考え方は異なるものなんだな。
「晟さん、大人なんですね。忍さんの話聞いてて苦しくなったりしなかったんですか?」
「まあな。そこら辺は割り切ってるから心にぐさってくることはあったけど、片谷くんに対していらついたことは一回もないよ」
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