127 / 131
[8]-6
なんだか、晟にはいつも前をいかれてばかりで悔しいな。
考え方も、行動もなにもかも。
忍と一緒にいる時間は今なら晟よりも多いと胸を張って言えるが、学生時代は明らかに晟の方がその時間は長かった。
「それに、幸せそうな顔してたし。俺にはできないことが片谷くんにはできたから、もう任せようって思ったわけよ」
「そうでしたか……」
「片谷くんが限定彼氏から本物の彼氏になって嬉しかったのは、事実だしね」
「懐かしい」
そんなことも言っていたな。
今思えば、あの賭けのおかげで忍と深い仲になれたのかもしれない。
我ながら、よくあの考えが出てきたものだ。
若いときは頭も柔らかい。
「いつでも奪還する準備は整ってたのに、全然二人とも仲が拗れなかったんだもん。いやー、割り込めなかったよな」
「困りますよ、割り込まれたら。俺が負けることほとんど確定してるようなものですし」
友人か一つ年下の生意気な奴のどっちか選べって言われたら確実に友人を選ぶだろうから。
いや、忍に限ってそれはないのかもしれないが。
「両親とかは大丈夫だったのか? 忍との仲について」
「平気です。母も父も忍さんのことをかなり気に入ってて。今でもよく連絡来ますよ」
「ならいいんだ」
反対は一切しなかったし、それよりも忍の対応が素晴らしすぎたので両親が実の息子よりも気に入っていたのだ。
最初忍の顔がかなり硬かったのだが、挨拶を終える頃にはいつもの忍のように、柔らかく温かみのある顔になっていた。
そのとき、好きだなあと思ったものだ。
もう何年も前の話だ。
「立派な大人になれてよかったよな、お互いに」
「はい、お互いに」
もし次生まれ変わったとしても、また忍とつき合いたい。
そう思えるほどに、忍のことを愛している。
愛している、なんて言葉では語り尽くせないほどに。
ともだちにシェアしよう!