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 こうやってビールを飲むことも、スーツを着て仕事に行くことも大人にならないとできないことだった。  時が経つのは本当に早い。 「忍っていつも片谷くんの前でどんな感じ?」 「うーん、晟さんと接するのとほとんど変わらないと思いますよ。人によって態度変えるような人ではないですから」 「知ってますー」  晟が不貞腐れるように言った。  忍は誰かに媚びるということも嫌うということもせず、それを態度に出さないで大人のつき合いをしている。  ただ、自分にだけは甘えてくれているような感じがするのだが……これはさすがに言わない。  忍のかわいいところを知っているのは自分だけでいい。 「そうだ。いいこと教えてやろうか?」 「え、なんですか?」 「実はあいつ、────……」  晟からそっと耳打ちされたことはかなり衝撃的なもので、つい噎せてしまった。  それを聞いたあと、晟の顔を凝視するといたずらが成功した子どものように笑っている。  適わないな。晟にも、忍にも。  なにも言えずに黙っていると、電話を終えた忍がちょうど戻ってきた。 「悪い、つい長電話した。久しぶりに宇月さんから電話来てさ」 「あー、あのひとか。なんかの誘い?」 「そんな感じ……って、優都どうした? 顔赤いけど」 「なっ、なんでもないです!」  片谷の返答に、そうか? とだけ言って残っているビールを一気に飲み干し、「おかわり!」と叫んでから背もたれに背中を預けていた。  まだ、片谷の頭の中には晟が言ったことがぐるぐる回っている。  忍の顔を真正面から見るのに、かなり時間がかかりそうだ。

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