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第7話 別の種族

 いくらシュレンジャー一家が心を開いてくれるとはいえ、獣と人に隔てられた壁を否応なしに感じることがあった。彼らが毛繕いをし合うとき、シリルはそれに加わることが出来ないのだ。獣人である彼らの舌は猫科のそれと同じでザラザラとしており、人間であるシリルの舌は滑らかで獣毛を舐めるとくっついてしまう。  薪がパチパチと音を立て爆ぜる暖炉の前で、母の膝に仰向けで寝転がって毛繕いをせがむグレンと同じ格好をすると、黒豹の母が頬をサリサリとした感触で舐めてくれる。 「くすぐったい!」と笑い転げるシリルとは正反対に、首筋を舐められているグレンはもっと、と首を伸ばしている。ひとしきり毛繕いをしてもらったグレンは、お返しに母への腕を舐めはじめた。シリルは少し考えて、自分もグルーミングをしようと試みた。グレンが右腕、シリルが左腕を舐め、毛並みを整えてゆく。しかし五分も経たないうちにシリルの口は黒い毛まみれになってしまった。 「ご、ごめん。僕、ここまでにしておく」 「無理しないでいいのよ、シリル君」と慰められるが、無理をしてでもやり遂げられない情けなさが勝ってしまう。居間の隅に行き、舌に付いた毛を取っていると、グレンの母がゴロゴロと喉を鳴らし始めた。見ると、グレンが母の首筋を毛並みに逆らって舐め、整えている姿が見えた。同じ姿、同じような嬉しそうな表情。そこにはお互いを思いやる親子の愛情があった。彼らは獣人で、シリルはどんなに無理をしてもそのあいだには入れないのだ。  シリルはそうっと足音を忍ばせ自分の部屋に戻り、寝台に座ってグレンの描いてくれた絵を見た。幸せそうに笑う両親の姿。雪の日の事件がなければ、シリルも今頃彼らと共に暖炉で寛いでいただろうに。 「……う、えっ」  いつの間にか目から何粒もの大きな涙が溢れていた。腰掛けていた寝台の白いシーツに雨粒が落ちたように濡れてゆく。 (お母さん、お父さん……)  グレンも彼の母も、良くしてくれている。だけど、シリルは別の種族なのだ。どう努力しても彼らのあいだに入ることが出来ない。シリルは必死で涙を止めようとした。この涙を、せっかく家族になろうとしてくれているシュレンジャー一家に知られてはいけない。泣いていると分かると、彼らが悲しんでしまう。そう思うのにカーテン越しに見える夜空は怖ろしいほどに綺麗で、シリルから水分を引き出してしまうのだった。  どれくらいの時間が経ったころだろう。泣きすぎて頭がぼうっとしてきたとき、爪でカリカリと扉を引っかく音がした。

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