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第8話 愛すべき獣人たち
「……シリル、入っていいか?」
この声はグレンだ。断ると不自然に思われる、と上掛けを頭から被り「いいよ」と返事をする。少し鼻声だろうが、顔を見せなければ泣いていると気付かれないだろう。コツコツという木靴の音が、寝台の前で止まった。
「悪かった、寝てたんだな。今日は寒いから俺も一緒に寝ていいか?」
「えっ、な、なんで」
断る隙も与えず、グレンは掛布をめくると体を寄せてきた。寒いと言ったくせに、上着を脱いで椅子に放り投げる。
「さ、寒くないの? 風邪ひいちゃうよ」
「くっついて眠ると暖かいから大丈夫だ。それにシリルもまだ寝間着に着替えてないだろう、上着を脱げ」
「えぇ……。なんでそんなに強引なの」
胴のあたりの服をたくし上げられ拒否混じりの返答をしていると、顔をグレンの方へと向かされた。
「獣人はさみしいとき、こうやって体を暖め合うんだ。さっき廊下にいたら、お前の泣き声が聞こえた。なにか思い出して泣いてたんだろう」
グレンは気付いていたのだ。上掛けをかぶって誤魔化したつもりでも、すべて見抜かれていたのだとわかり、顔が熱くなる。
「悲しいことやさみしいことがあっても、体をくっつけるとほっとするって、昔から言われている。多分獣人でも動物でも人間でも、温かい心臓を持ってる者なら皆同じだ」
上半身がふさふさの獣毛に覆われた姿で、抱きついてくる。かなり強引だが、グレンなりの慰め方なのだろう。それに、言われた通り素肌に毛皮があたると、ふわふわとしていて気持ちがいい。しばらくすると、スウスウという安らかな寝息が聞こえてきた。シリルの否応を効くよりも先に、グレンは眠ってしまったらしい。毛布よろしく抱きついてくる豹人の顔を観察していると、鼻がひくひくと動き、ユーモラスな音が響き始めた。
「くぅ、くぅ……ふくくく」
まるで笑っているように口の端を上げて、ふざけているような鼻息を吹き続ける兄弟分を見ていると、笑いを禁じ得ない。思わず「ぶっ……あはは!」と大声で笑ってしまった。
「グレンの言う通りだ。体をくっつけると毛布より温かいし、おかしな寝息を聞いていたら、悲しい気持ちも吹っ飛んじゃった」
(この家に来てよかった)
暑いと思えるほどに、眠ったグレンは熱を分け与えてくれる。そのせいか、シリルはもう悲しい気持に陥ることなく、眠りにつくことが出来た。以来、少しでもさみしくなったら、グレンかシュレンジャーの父に同衾してほしいとねだれるようになった。恥ずかしいから口には出さないけれど、いつかここを出てゆくときには礼を言おう。この愛すべき獣人たちに。
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