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右近衛中将の貞操 version蓮月
蓮月の初恋は、5歳。
5歳年上の美丈夫。
驚くほど多くの漢詩を諳んじることができ、弓も剣も完璧。
それでいて、優しくて洗練されていて……一目で夢中になった。
「必ず、お迎えにあがります。私の姫になってください」
そう言って、プロポーズされたときは、嬉し過ぎて天にも昇る心地だった。
初恋の人が、やんごとなき身分の高貴な人であり、その上、自分は男なのでどうあがいても彼の妻になることが出来ないと知ったのは、その数年後のことだった。
そして同時に、女御として入内できなくても、彼の姫になることは出来るとも知った。
そう、男の自分でも、姫のように寵愛を受けることは……
「あの人は、変な所でマジメだからな」
時には嫉妬を煽り、時には艶めかしい色香を振りまいてと、あの手この手で誘いをかけているが、なかなか手を出してこない。
……準備はいつでもできているのに。
「内大臣の彰姫は、大変美しく、筝の名手と噂ですな」
内大臣の腰ぎんちゃくの権中将が揉み手をしながら口にした言葉に、蓮月は我に返った。
世間話に見えるが、これは女御入内の地ならし。
こうやって、自分の手下や知り合いを使って娘の評判をあげ、帝の妃の座を狙うのだ。
まったく、油断も隙も無い。
「なるほど、そんなに素晴らしい姫なので、蔵人頭様がご執心なのですね。先日、ついに実ったと聞き及んでいます」
蓮月は、権中将ににこやかに言葉を返した。
政治的な駆け引きは何も知りませんという天真爛漫な笑顔で爆弾を落とす。
他の殿方と通じた姫は、当たり前だが女御にはなれない。
彰姫の入内の話はなくなった。
こうやって、常にアンテナを張っておき、小さな芽のうちに潰すのだ。
蓮月は決心していた。
どんな姫であっても、自分がそばにいるうちは入内を阻止する。
帝に、新しく妻をめとって欲しくない。
この退屈な会議が終わったら、清涼殿の池に行こう。
あの人は落ち込んだ時、いつもあそこで佇んでいるから。
一生懸命励まして、今日こそは口づけをしてもらおう。
次の宿直の時には、思い切って帝の寝所に忍び込んでみようか?
衣をはぎ取って、彼のイチモツを口に含み……
「いやはや、美しい」「おなごに負けない色気がありますな」とヒソヒソと囁く声は、蓮月には聞こえていない。
「右近衛中将っ!! そちには急ぎの仕事を任せる。退座を許す。いや、いますぐ、退座しなさいっ!!」
蓮月は、帝の少し怒ったような口調の声に現実の世界に引き戻された。
急にどうしたんだろうと、訝しく思いながらも、帝の命令に従って文官に指示を仰ぐために退座する。
会議はそっちのけで、あれやこれやと淫らな想像をしている蓮月からは、壮絶な色香が漂い、同席している人々の欲情を掻き立て、心を惑わせる。
それに対し、帝が、蓮月の貞操を守ろうとヤキモキして、余計に手を出せないでいることに、当の本人は全く気付いていないのだった。
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