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「あぁそれで…」
題材を探してたのか。
…と言うか、彼は絵を描くのか。美術よりも、スポーツの方が得意そうに見えるのに。
振り返って見上げる彼に習い、俺も上を見る。
さわさわ と揺れる梢の音が耳に心地好い。
「…絵画専攻なんだ?」
「あー、今 意外だとか思ったでしょ?俺、こう見えて絵めっちゃ上手いよ。」
「ははっ、自分で言うのか。」
「俺自分は自分で褒めていくスタイルだから。」
「なんだそれ。」
「ポジティブシンキングだよ。ポジティブシンキング。大事でしょ。」
「確かに、大事だけどな。」
「君は…」不意に彼が俺に視線を向ける。
やめろ、見つめるな。照れるだろ。
「君は…、T大って医学部が有名なとこだよね?」
「…そうだよ。俺は教育学部だけど…。」
駄目だ、俺 今 絶対ドギマギしてる。
「へぇ!教師目指してるんだ?」
「まぁ…。特別なりたい訳では無いんだけど。」
「んー、まぁ皆そんなもんでしょ。何の先生?」
「小学校だよ。小さい子は好きだから。」
「小学校かぁ、疲れそうだな~。」
「…俺よりも、君の方が向いてるかもね。」
「俺?なんで?」
「コミュ力が高そうだから。」
「えー?そうかな?」
「うん。友達多そう。」
「あはは、でも小学生の相手って大変そうだな。」
「大変さで言ったら、絵の方が大変だろ。」
「う~ん、絵で食べていこうと思うとやっぱり大変だよねー。」
彼は木を見つめたまま呟くように言った。
「?…画家?とかアーティスト?にはならないのか?」
「ん~…ならないって言うか、なれないって言うか…。」
彼の顔から段々表情が抜け落ちていく。
スッとした鼻に長い睫毛、形のいい薄い唇。…本当に整った顔立ちをしている。
人形…みたいだ…。
独り言のように彼が続ける。
「俺ん家、自営業なんだけどさ…。親が後 継げ継げってうるさいんだよ。しかも うちの両親、美術なんて…って言うような人たちだし、更に俺、絶賛スランプ中だし…。」
「…………」
「家のことはやりたくない訳ではないんだけど…、今はそれよりも、他にもっとやりたいことがあるって言うか…、それなのに描きたいものが描けなくなってきて…その内描きたいもの自体、分からなくなってきちゃって。まぁ絵描きになれたとしても、それで生活できるかはまた別の話なんだけどね…。もうホントどうしよー…みたいな。」
はは、初対面の人に俺何言ってんだろうね。ごめん、重いでしょ。そう言ってばつが悪そうに笑う彼。
ううん…そんなことない。
(……だからそんな顔、するなよ。)
「……俺…は、やりたいこととか無いから、それが出来ないことへの不安とか、憤りとかって…、俺には多分、
よくは分からないんだけど…。スランプって、成長する一歩手前なんじゃないかな…と、俺は思うよ。」
「…………。」
「…目の前の壁に最初は気付かないけど、進んだから、壁があるってわかるんだよ。
スランプはその壁を登ってる途中だから、辛いし、止めてしまいたくもなるけど…、けど、進まなかったら壁があること自体気付けないし、気付けなかったら…登ることは出来ないよ…。だから、その、何て言うか…、スランプは えっと…」
「……………。」
あれ?俺は何が言いたかったんだっけ?
しどろもどろ、支離滅裂。きっと一番伝えたかったことは言えていない。
ウロウロ視線がさ迷って、挙動が不審になる。恥ずかしい。
…横からの視線が痛いです。
「フッ…、あはっ、あはは!!あははは!!!」
「…へ?」
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