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第4話
戦で敗北したリィンフォース軍は、王である私を含めて大勢が拘束されていた。
「丁重に扱え」
捕虜を扱う配下へと言葉を残しながら、シュヴァルツが私の腕を掴み、引きずるように明らかに他よりも凝ったデザインの長い廊下を早足で歩く。
「貴様……!」
私は、己より僅かに高い位置にあるシュヴァルツの顔を睨みつけた。
しかし、シュヴァルツは全く動じることなく、動きを封じられた私の身体は抵抗できないまま、シュヴァルツによって寝室だろう場所とあっという間に連れ込まれてしまう。
いや、万が一封じらていなくても、純粋な力比べでは、おそらく勝てなかっただろう。
戦場で戦い、私はそれを実感した。
虎と獅子であれば、獅子の方が通常は体格が良い事が多いのだが、シュヴァルツは獅子族と比べても遜色はない。
私が獅子族としてはあまり大柄ではない事もあるだろうが、こうも簡単に屈服させられるとは思っていなかった。
キングサイズの豪奢なベッドの上に押し付けられて、痛みに顔を顰める。
伸し掛かってくる身体を阻む手段もなく、シュヴァルツが私の首筋へと舌を這わせてくる。
「私を辱めるつもりか……っ!」
敗北した私に対して屈辱を与えるためにだろうか、私の服を剥いでいく大きな手。
仄かに香るシトラスの香りは、この男がつけている香水だろうか。
「綺麗な肌だな。それに、程よくついた筋肉が……っ」
ゆっくりと降りていくシュヴァルツの唇が、私の胸の飾りにたどりつくと、唇で挟みこむようにしゃぶりついて来た。
反対側を指で挟まれ、ぎり、とすりつぶされて、ちくりとした痛みに顔を顰める。
しかし、それよりも今起こっている事に、私はひゅっと乾いた息を吸った。
「な、に、を……!」
身体を捩りながら抵抗するが、シュヴァルツは軽々と私を押さえつけた。
シュヴァルツは、手慣れた様子で私の下の衣服を下ばき事はぎ取ると、ベッド脇へと投げ捨てた。
この男が、私を犯そうとしているのは分かる。
「ふざけるな! 貴様!」
しかし、シュヴァルツの手は、私を嬲るのではなく、まるで愛しいものへと愛撫するかのような手つきをしていた。
香油を手に取ったシュヴァルツは、私の身体をひっくり返し俯せにすると、私の秘所へとその香油の中身を垂らす。
「Ωと違い、αは濡れないからな。まぁ、貴方がΩでも私は使うが。媚薬入りだから、痛くない。媚薬効果のある香も焚いている。抵抗しなければ優しくしてやろう」
そう囁くシュヴァルツの声は優しい。
オーロラは、こういった所が好ましいと思ったのだろうか。
室内の香りは、私の思考回路を徐々に奪っていく。
完全に正気だったのであれば、拘束されているなりにも、もっと激しく暴れていただろうが、不思議な香りは、私から闘争心を失わせていった。
こんな行為は、屈辱以外の何物でもない。
αに生まれた男が、受け入れる事など通常はあり得ない。
αの男は、この世に存在する頂点だ。
加えて、獅子の一族は、獣人の中で頂点に君臨する種族であると言われており、その王である自身は、世界一の存在なのだと、そう教えられてきたし、そう思ってきた。
事実、戦いにおいても負けたことは無かったのだ。
今日まで、一度も。
己より格下であるはずの虎族によって敗北し、地べたに這いつくばった私は、さぞ惨めな存在として周囲には認識されていただろう。
長い指が秘所を激しく抜き差ししている感触は、最初は違和感しか感じなかったが、媚薬の影響があるからか、異物感はあるものの嫌悪感は感じなくなっていた。
頭上から降ってくる軽い口づけは、小まめに行われているが、そんな些細な事を気にしていられたのは最初だけだった。
慣れない行為も、丁寧に慣らされた事で、私の抵抗を完全に奪って行き、シュヴァルツの逞しい陰茎がメリメリと入り込んでも、痛みを感じる事は無かった。
「ん……っ、あぁあっ」
鼻から抜けたような声が私の口から出てくるが、解かれていない手の拘束のせいで、声をこらえる事が出来ず、ただ喘ぐしかない。
私に覆いかぶさったシュヴァルツの姿は、私と違って、乱れているのは下腹部のみだ。
「はぁ……っ、キツイな。やっぱり初めては」
低く呻きながら、シュヴァルツが腰を激しく動かす。
長い楔が奥を突き破る勢いで突き進んできて、今まで誰も触れたことのない部分へと叩きつけられると、痺れるような快感が脳天をつきぬけた。
後ろから回されたシュヴァルツの手が、私の陰茎を挿入に合わせて扱くと、何も考えられなくなってしまう。
「やめ……っ! 激しい! もうっ」
私が、自由にならない身体がもどかしくて、頭をシーツに擦り付ける様に悶える様を、シュヴァルツの楽し気な声から、見つめられているのだろうと感じる。
「ああ。もう、やはり本物は全然違うな。貴方のこんな姿を見たのは、私だけだろう? いや、これからもそう、だっ!」
一際、激しく腰を叩きつけられて、思わず引きつった悲鳴を上げると、シュヴァルツの機嫌がより一層良くなったのか、耳元で笑い声が聞こえた。
その声に苛立ち、可能な限り振り返りながらシュヴァルツを睨みつけるが、シュヴァルツはそれを容易く捻じ伏せるように、深い口づけをしかけてきた。
せめてもの抵抗で下を入れられない様に歯を閉じていたが、秘所を太い陰茎でゴリゴリと激しく擦り上げられれば、容易く舌の侵入を受け入れてしまう。
「んっ、うぅん、やめろ……っ」
「止めない」
立派なベッドも、逞しい体躯の二人の体重を受けて、ギシギシと激しく軋む音が聞こえる。
こんな行為は、私は望んでいない筈だ。
私が、今までで愛情を持って相手と関係を持ったのは、オーロラ一人だけだ。
それまでは、閨の教育だったりと、愛情のある行為では無かった。
挿入すれば最終的には射精は出来たが、オーロラと出会うまで、その行為自体を好きになった事は無かった。
射精するだけであれば、自身でするのと変わらない。
そう思っていた。
だが、オーロラと出会い、私は行為自体に意味を見出したのだ。
そして、オーロラが居なくなってしまい、後からやって来た妃との行為は、以前と同じ虚しいものでしかなかった。
あれほど、信頼したアリーチェとの行為でさえ、正直に言うと義務以外の何にも感じられなかったのだ。
しかし、今感じているこの強烈な快感は、そんな義務感など払拭するようなものだった。
愛の無い行為である筈なのに、時折合うシュヴァルツの視線の中に、まるで私に対する愛情があるように見えて、私は戸惑った。
「くっ、もう……っ、出る! はっ……くっ! うぅっ」
低い快感を隠さぬ声が、頭上で聞こえ、力強い肉体がずっしりと伸し掛かったのと同時、私の中で、シュヴァルツの陰茎が勢い良く射精した。
私が女かΩならば、確実に孕んでいただろう。
まるで長い間、射精していなかったかのように、中でびくびくと長く震えている。
「私の子種は、これから貴方のものだっ……! 私の初めてを捧げれなかったのは残念だが、貴方の処女は私が貰えたのだから、……っ、くっ、我慢しなければっ、いけないなっ……!」
興奮した様子で、シュヴァルツが私の耳を齧りながら、尻尾を掴む。
男の意味の分からない言葉の羅列に、私はかろうじて眉を寄せた。
しかし、何度も射精しながら身体を揺さぶられてしまうと、その意識はすぐに霧散してしまう。
身体の力はもはや完全に抜けていた。
もしも腕が自由であれば、男に縋りついていたかもしれない。
オーロラにしている仕打ちを考えれば、この男の事は憎い。
ただでさえ、愛しい相手を奪われているのに、その誰よりも愛しい相手を傷つけている男が、この男なのだ。
おそらくは、この後、シュヴァルツはオーロラにしたのと同じように、私の事も犯させるように命令するのだろう。
だが、それならば、もしかするともう一度オーロラに出会える可能性があるのだから、良いのかもしれない。
私はそう考えながら、意識を失った。
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