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第6話
あれから、何夜過ぎただろう。
最初に抱かれてから、私はずっとシュヴァルツに抱かれ続けていた。
男の欲望はとどまることを知らず、何度も何度も腹の奥に射精をされる。
私がΩならば、とっくに孕んでいてもおかしくはない量だ。
腕の拘束は既に解かれていたが、逃げ出さない様に首輪をつけられて、その鎖はベッド脇の柱に繋がれていた。
どんなに激しく抵抗をしても、全く抵抗をしなくても、シュヴァルツの私への態度が変わらない事に気づいてから、私は無駄な体力を使わない様に一切抵抗をするのを止めた。
この男は、決して私に暴力的な行為を強いる事はない。
受け入れる側の役は屈辱的な筈なのに、あまりに優しく触れられると、変な気持ちになってしまう。
オーロラのたどった末路と同じように、いやそれ以上の凄惨な扱いを受けるのではないかと思っていたのに、シュヴァルツは私を大切な存在のように扱う。
身の回りの世話はすべてシュヴァルツが行い、私は他の者に会う事すらないのだ。
「今日は、貴方が好きだと言う果実を持ってきた。食べるだろう」
私がティルノナーグの料理が苦手だと気づいたシュヴァルツは、すぐさま食事をリィンフォース風の味付けへと変えさせ、加えて果物など、私が食べやすい物を持ってくる。
外へは出る事はできないが、室内にはたくさんの本が用意されており、自由に読む事を許されている。
「……いつになったら、私の扱いは定まる」
「またその話か? 貴方の扱いは既に決まっている。これから貴方は私の部屋で過ごす。それだけだ。兵士は、来週にでも国へと帰そう」
「私は侵略者だろう! ならば、処刑するか、それに準ずる扱いが正当だ!」
この待遇はあからさまにおかしいと、私は抗議の声を上げるが、シュヴァルツはそれを意に介さず、薄く微笑んだ。
「そうだ。貴方は負けた。だから、勝者である私が貴方の扱いを決める事が出来る。そして、私は貴方と言う存在を、この場所に縛り付けると言う扱いに決めたのだ。臣下たちも、知っている話だ」
「ふざけるな。αの私を屈服させ、犯すのが、それほどにお前にとって重要な楽しみだとでも言うのか!」
「私は貴方を屈服させたいわけではない。私は貴方を愛したいだけだ」
シュヴァルツは、私を抱いたあの日から、私の事を愛しいのだとそう囁き続けている。
私がオーロラの事を問いただすと、シュヴァルツは、何のためらいもなく、スラスラと今までの話を伝えてくる。
私への気持ち、オーロラを抱いた理由、そしてオーロラの事を今では激しく疎んでおり、出来る事ならば壊してしまいたいと、悪びれずに淡々と告げるのだ。
略奪するように連れてきたオーロラへの仕打ちは、さすがの臣下からも苦言の声を受けていると聞いたが、当然の話である。
リィンフォースと違い、ティルノナーグではいまだに奴隷制度は残っているが、妃として迎えた者に対する仕打ちではない。
事実上、リィンフォースと言う国から捨てられた存在であるオーロラでなければ、とっくの昔に国際問題に発展している話だ。
オーロラにはもう価値がないと、シュヴァルツの中では定まっていた。
だが、蓋を開けてみれば、こうやってヴァイスを手に入れる事が出来る駒になったのだ、とシュヴァルツは喜んだ。
「オーロラを開放してやってくれ!」
シュヴァルツが、私を望んでいるのであれば、受け入れても良いと私は懇願した。
この戦を行う段階で、私の名声などもはや地に落ちるものだという事くらいは理解して挙兵をした。
己の感情を優先させたのだから当然だ。
それでも、どうしてもオーロラの現状を救いたかったのだ。
確かに、オーロラは私が思っていたような清い存在ではなかったのだろうが、それでもオーロラに対する愛情は私の胸の内から消える事は無かった。
愚かだと言われようが、私にとっては誰よりも愛しい存在だったのだから。
せめて、普通の人生を歩ませてやってほしい。
そう思わずにはいられなかった。
「貴方は、いつもオーロラの事しか言わない」
「それは……!」
運命の番だったのだろう、と良心に訴えかけようと試みても、シュヴァルツは眉一つ動かさなかった。
「確かに、私は最初に出会った際に、もしかしたらと思った。しかし、今思えば、私がアレに感じたのは即物的な性欲だけだった。そこには守ってやりたい、愛してやりたい等と言う気持ちは無かったのだ。私はずっとあの我儘な気性は不快にしか思わなかったしな。今アレにしている仕打ちも、俗物的に言うなら、ざまぁみろと言う歪んだ気持ちしかない。……きっと本当の私の運命は貴方だったのだ。私は今、貴方にどうしようもなく愛おしい気持ちを抱いているのだから」
「α同士で番などありえるはずがない!」
シュヴァルツの話は世迷言だ。
番になれるのはαとΩだけなのだから。
それを証拠に、どんなにシュヴァルツが私のうなじを噛んでも、私たちは番になっていない。
「それでも、私の番は貴方なのだ。だから、私はアレを永遠に許すことが出来ない」
「何故!」
「貴方は、まだアレが好きなのだろう。愛している。私にはそれが許せないのだ。貴方は私だけを愛すればいいのだから」
愛する人を苦しめる存在を愛する事など、出来るわけがない。
しかし、男の熱い眼差しが、私を脅迫してくるのだ。
「それに、アレも帰りたいとは思っていない筈だ。番である私から離れるのは、アレにとっては苦しみだろうからな?」
「そんな訳がない!」
シュヴァルツの言葉に、私は噛みついた。
家畜にも劣る扱いを受けてまで、この男をオーロラが愛するわけがない。
きっと、今頃は私と別れたことを後悔しているに違いない。
私の方が良かった、とオーロラはそう思っている筈だ。
叶うのならば、もう一度やり直したいが、願っても自由になれぬ今の身ならば、せめて他の者とでも良いから、幸せな人生を歩んでほしかった。
「では、確かめて見るか? 会わせてやろう。オーロラにな」
シュヴァルツは、嘲笑うかのように私を見下ろして言った。
「会わせてくれるのか!?」
弾む私の声に、シュヴァルツはくくっと嫌な笑いを浮かべる。
「ああ。だが、今の貴方にアレの現状は酷かもしれんがな。だが、それで貴方も諦めるだろう」
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