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1章 2話 成人の儀
家を出てから村の真ん中にある広場に向かう。祭事があれば村の真ん中で行われる。成人の儀も婚姻の儀も御魂送り もすべてここの広場で行うのだ。
進行は全部村長であるおじいさんと補佐のジトだけど。キトも勉強の為に今まで何回か執り行った。そのうち僕もやることになるのかな、と思っていたところで広場につき、村の皆が声をかけてきた。
大昔は村人だけで五百人は越えていたらしいけど、今は五十人にも満たない。だから皆家族のようなものだ。
「リト様、成人おめでとうございます」
「ざいまーす」
「セナ、それはないだろ。きちんと言いなさい。リト様、成人おめでとうございます」
「「リト様おめでとうございますー」」
ジトの後にセナとヨルが声を掛けてくれて皆がそれぞれ僕に祝福の言葉をくれる。
ヨトとシナと他数人の村人は村はずれにある櫓で魔物が村に侵入してこないように警備しているはずだ。本当はヨトとシナにも見てほしかったけど……。
「まだじゃまだじゃ。成人の儀は終わっておらんじゃろうが。それよりも、リト。魔方陣の真ん中まで進みなさい」
おじいさんの声に皆がくすくすと笑ってそれから散らばっていった。
広場の真ん中に円形の魔方陣がありその向こう側には聖木で作られた祭壇。祭壇の上には風の精霊様に捧げる器に入った様々な果物の供物。
見ている皆の後ろには成人の儀が終わった後に宴会をするのだろう、いくつもの机の上に料理やお酒や飲み物がところせましと置かれている。
おじいさんの声に答えるように僕はキトと繋いだ手を離すと、魔方陣の真ん中まで進み片膝を地につけて座り、手を組んで祈りの姿勢をとった。
「これより成人の儀を始める」
祭壇の前に立ったおじいさんが聖木で出来た杖を構えて小さな声で魔法を詠唱しはじめる。
成人の儀は山の神の眷属である風の精霊様に祈りを捧げ、これまで無事に成長できたことを感謝すると共に精霊様に祝福をしてもらうのだ。精霊様に祝福して頂くと言うことは、精霊様から加護を授かると言うこと。
見た目的には分からないけど、風の精霊様に力をお借りして風魔法を操る僕達ヴィヌワはこの儀式をしてから魔力や魔法の詠唱、威力が格段と違うものになると聞いた。
キトの時の成人の儀は見れなかったけど村の皆がすごかったと言っていた。僕はキトみたいに攻撃魔法と回復魔法、二つの魔法を操ることが出来ず回復魔法しか操れないけど、いつかキトみたいなすごい魔弓師になりたいと思ってる。
「リト様心を乱してはなりません」
「はい」
ジトの声に思考を止めて、精霊様への祈りに集中する。
ざわざわと村外にある木々が風に煽られ揺れ、魔方陣の周りを風が漂い始める。「精霊様がお降りになられた」と誰かが呟いたのが聞こえた。
暖かい風が足から頭へと僕の周りをゆるゆると遊んでるように回り、おじいさんが音をさせて杖を地面に突き刺すと着ているローブが風に乗ってパタパタと揺れ、激しく風が吹いたと思った瞬間、近くにあった家の屋根をバタバタと揺らして空へと突き抜けていった。
ほうっと息を吐き、精霊様に感謝を捧げる為に三回礼をすると僕は立ち上がった。
極度の緊張で力が入っていた手をぶるぶると振り緊張を解くと爆発的な歓声が上がった。
「これにて成人の儀を終了する。リト、成人おめでとう」
おじいさんの声で気が抜けて膝がかくんと落ちた。地面に倒れると思ったのは一瞬で、手が地に着く前に抱きとめてくれたのはキトだった。
「キトありがとう」
「成人おめでとうリト」
キトの潤んだ瞳を見て僕は泣きたくなった。
十歳まで生きられないと言われた僕を育ててくれたキト。十二歳と言う年齢で僕を自分の子供のように育ててくれた。他の家の子供のように遊びたかっただろうに……。
ヴィヌワ族は子供が十歳になるまでは抱っこ紐で子供を括り付けて肌身離さず育てる。父親と母親の二人が交代しながら子育てをするのだ。本当は僕の母や父がそれをするはずだったのに、キトは誰にも文句を言わずにおじいさんと交代しながら育ててくれた。
「……うぇ……ふぇ……」
「リト……」
瞳は潤んでいるけどその笑顔は僕が十五歳になったことを喜んでくれている。
「うぇ~~~~~」
ひくひくと喉をならし声を我慢していたけど、「ほらほら子供じゃないんだろ?」と言うキトの優しい声に僕は声を上げて泣いた。子供のときみたいに背中をゆすり撫でて慰めてくれるキトの胸に顔を埋め、背中に回した手にぎゅっと力を込める。キトは僕が泣き止むまでずっと抱きしめて頭と背中を撫でてくれていた。
***
成人の儀が終れば後は宴会だ。
机に並べられている料理や酒や飲み物を各々取ると、好きなところに座って話ながら食べ始める。僕の周りにはおじいさんとキト、ジトにヨルにセナ。
「しかし先程の風はすごかったですね」
「あれは本当にすごかった! ボクの時とは大違い!」
向かい側に座ったヨルが言い、一つ年上のセナが大きな肉を頬張った後に僕を見ながら言った。
「あれほどの風を起こせるのはやはり純粋なる血族所以ですな」
「リトは風の精霊様に愛されている」
ジトの言葉を聞いたキトが僕に顔を向けると目を細めて笑った。
「そう思うのならば、リトを守らねばならんぞ? キト」
おじいさんも皆も一体何の話をしているのだろう……?
きょとんと首を傾げる僕にキトが「そのうち話すよ」と言って笑う。そのうち話すと言ってくれたから、まぁそのうち話てくれるだろうと、気にするのをやめて、気になっていたスープに手を伸ばす。
風も収まり暖かい日差しが降ってくる。首を巡らせて村の皆を見ると酒を飲んだのか、顔を真っ赤にさせて夢中で話し込んでいる姿が見えて僕はくすりと笑った。
スープの入った器に視線を戻しスプーンでごろごろと大きな芋を掬うと僕は大きな口を開けて食べた。
「美味しい」
「無理せず、だけどしっかり食べるんだぞ? リト」
「うん」
キトはこうして本当の父親の様に声を掛けてくれ、小食の僕がきちんと食べれるようにって栄養の事を考えて調理してくれる。村の中では一番の魔弓の腕を持っていて、僕の魔弓の師匠で、魔法の先生。村一番の美人と言われてる僕の自慢の兄。
僕を気遣ってくれて色々世話をしてくれて、頭があがらないなーと口の中に入れた芋を租借しながらキトの顔を仰ぎ見た時だった。
「村長様! 大変です!」
櫓で警備をしていたはずのヨトが息を切らせて村に駆け込んできたのは。
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