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2章 2話 メルルとウルル
野営地で手早く昼食をすませ「少し休憩していこう」って事になって地面に敷いた敷物の上でキトに魔物の事や僕が不思議に思っていたことを質問していたらキトが急に顔を上げ耳を前後左右に忙しなく動かしはじめた。
「キト?」
人差し指を口の前に持っていき「しっ」と言って黙り込み、まだその耳はピルピルと動いている。何かあるのか、と僕も耳を澄ませ音を聞いて驚いた。僕達以外の人の話し声が聞こえてくる。その声はまだ遠いけど、声が段々と近づいて来ているのが分かる。
「キ……キト」
「大丈夫」
何分体を硬直させていたのか、キトが耳を動かすのを止め僕に顔を向けてにこりと笑った。
「どうやらルピドでもリオネラでもなさそうだ。多分キャリロだろう」
なんで見てもいないのにそんな事が分かるんだろう。僕が不思議に思っていたのが顔に出ていたのかキトが説明してくれる。
「人の歩き方の音はそれぞれ違うものだ。ルピドやリオネラは体が大きいから足も大きくなる。だからその分足音も大きくなる訳だ。反対にキャリロの連中は成人しても身長は精々百五十位だ。その分足も小さくなるから足音も小さくなる。完全に気配を消されては分からなくなるが、それでも聞いている範囲で気配を消されたら”何かある”と分かるだろ?」
「聞いている、範囲……?」
「常に耳に入ってくる音の事だが?」
何を言ってるのか僕には分からない。人の足音なんて気にしたこと無いし、キトみたいに常に広範囲の音を聞いていると疲れてしまうから、わざと音は聞かないようにしている。でもキトは常に耳に入ってくる音を気にかけている?
教えてもらったナーゼ砦までの道は比較的安全に進めると言っていた。道に沿って魔物避けの木が植えられてあるから安全なんだって。
「リト、村外に出たら危険だと言っただろ? この道が安全だと言っても警戒を怠ってはけない。魔物が来ないから大丈夫って訳じゃないんだ。ルピドやリオネラが接近している音に気がつかなかったら俺達は捕まるんだぞ? 休憩していたとしても警戒を怠ってはいけない」
「……ごめんなさい」
説教モードに突入してしまったキトの声を聞きながら僕は項垂れた。
***
かさりと音がして姿を現したのは頭頂部にある大きな丸い耳と茶金の髪をした二人のキャリロ族だった。尾は細く長いって聞いたことあるけど、足元まであるローブを着ているから今は見えない。キトに聞いた通り緑の宝石みたいな目と小さい口、背も僕より低そうで可愛い。
僕の番もキャリロみたいに可愛い人だったらいいなぁ。
「おや、先客がいたねぇ」
「あ! ワ村のキトだ! 久しぶり~」
野営地の入り口に立っている二人はキトの知り合いなのか小さな方のキャリロ族が気安く声をかけてくる。横のキトを見ると微笑んで手を振って二人を呼び、僕達が座っている敷物の上に二人が座った。
「久しぶりだな。メルル、ウルル」
「元気そうだねぇ、キト」
「それよりさ! このちっこいヴィヌワ誰?」
ちっこいって、僕の事? 確かに背は成人のヴィヌワの中では小さい方で、身長が百八十あるキトと比べたらちっこいけど、ちゃんと百五十八はあるんだ。僕よりも小さいキャリロには言われたくない。むっとして顔を背けたらキトが噴出した。
「この子はリト。俺の弟だ。仲良くしてやってくれ。リト、この二人はメルルとウルル。この先にあるニナ村に住んでいる」
「初めましてだねぇ。僕がメルル。で、こっちのちっこい方がぁ僕の弟のウルル」
まだくつくつ笑っているキトをジト目で見ると誤魔化すようにキトが僕の頭を撫でた。挨拶をするようにキトに促されて僕もメルルとウルルを見る。
「初めましてリトです」
「ちゃんと挨拶できるんだね、ちっこいのに偉いね! いくつ位かな? 十二歳位かな? あれ? でもヴィヌワって成人するまで外に出れなかったような?」
僕の顔を覗き込んで頭を撫でてくるウルルにムカっとして僕は顔を背ける。顔を背けているのに前に回りこんで更に顔を覗きこんできた。
「ウルル、こう見えてもリトは十五で成人してるんだ。背が小さいのを気にしているからそれ以上は勘弁してやってくれ」
「え?! ええええ!! その身長で成人!? 信じられない! 本当に僕と同じ十五なの? ヴィヌワってゼトやキトみたいに大きいんじゃないの?」
「こらこらウルルやめときなさぁい。リト君泣きそうだよぉ」
「俺とじーさんは他のヴィヌワよりは大きいが、だいたいのヴィヌワは百七十位だぞ」
「十五に見えなくても十五なの! だいたい僕より小さい人に小さいって言われたくない!」
「小さいって、僕キャリロの中では平均だよ。ね、兄さん」
「ウルル嘘は言っちゃいけないよぉ。君の身長もキャリロの中では小さいからねぇ」
まだぷりぷり怒っている僕の背を労わるように撫で「それより」と話題を変える為かキトがメルルに顔を向けた。
「メルルもウルルもどうしたんだ? ワ村に行商に来たのなら、引き返したほうがいいぞ」
二人が顔を見合わせたところでキトが僕達がここにいる経緯を話はじめた。
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