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2章 4話 ナーゼ砦

 メルルとウルルと別れてから五日、僕とキトはナーゼ砦が見える所まで来ていた。  ワ村からここまで道なりに進み、魔物に襲われることはなかったけど、キトの真似をして広範囲の音を拾い続けていたら、気持ち悪くなってしまって一日ほど野営地で時間を潰してしまった。  僕の様子にキトは少し気持ちが浮上しているようだったけど、メルルとウルルの話を聞いてから塾考してる事が多かった。 「リト、フードを被れ。それから俺の手を離すなよ」  僕にフードを被せ手をぎゅっと握るとキトが僕を隠すようにして山を降り始めた。  キトの背中越しに見える巨大な壁。目測するとゆうに縦五十メートル以上はあろうかと言う程の大きさに僕は口を閉じる事ができず、ポカンと開けて見ていた。  その壁は山沿いにずっと伸びてどこまでも続いている。視界に入る山沿い全てにだ。 「驚いたか?」 「う、うん。大きいって聞いてたけどここまで大きいと思ってなかった」 「俺も驚いた」  ははっと笑ったキトに引っ張られるままに歩く。数歩も行かずにキトが足を止めたことにより、僕も自然と足が止まってしまった。  何かを真剣な眼差しで見ているキトの視線の先を見ると、長蛇の列が出来ていた。長蛇の列を作っているのはほとんどがキャリロだ。だけどその中に何十人かのヴィヌワの姿も見える。一つの村がここにいるのだとしたらこの数も頷ける。  昔はどこの村も五百人以上はいたのに、最近では子供が産まれにくくなっている事と魔物に襲われて命が簡単に散ってしまうから村人も五十人以下になっている村が多いのだ。 「ウルルとメルルの言った事は本当なのか? リト、少し急ごう」  キトの呟きに頷き、早足で山を降りた。 ***  近づくにつれて段々と砦前の様子が見えるようになってきた。キャリロやヴィヌワの中にまぎれてルピドやベーナの姿も見える。巨大な門の脇にベーナが立っていてナーゼ砦の中に入る者の荷物を検めているようだ。長蛇の列の最後尾には僕達と同じヴィヌワが立っていた。 「キ、キト、ルピドがいる」 「大丈夫だ、リト」  長蛇の列の最後尾に並び、目の前にいる茶髪に白髪が混じったヴィヌワの老人にキトが声を掛けた。 「どの位並んでいる?」 「! ヴァロ・ヴィヌワ(白兎)! 貴方様はもしかしてワ村の……?」 「キトだ。こっちはリト。で、どの位並んでいる」 「なんと! なんと! やはりワ村も移住を決めたのですな。なんと悲しきことでございましょうか」  老人の態度にキトが焦れたのか老人の隣に立って老人の背に手をやっている茶色の長い耳と茶色の髪をした青年に顔を向けた。どうやら並んでいるヴィヌワはヴィヌワの中でも一番数が多いヴィア・ヴィヌワ(茶兎)のようだ。  他にもヴァノ・ヴィヌワ(黒兎)がいるけど、ヴァロ()ヴァノ()も数が少ない。 「じさまがすみません。僕はイ村出身のフキと言います。じさまはナキ」 「西のイ村のフキとナキか。覚えておこう」 「ありがとうございます! えーと僕達が並んでそこまで経ってませんけど、多分十分位でしょうか。ちょっとじさま!」  跪いて祈りの姿勢をとろうとしたナキにフキが声を荒げた。それを見てくすりと笑ったキトがナキの手を取って立たせ膝についた土を払い、体の向きを直したキトがフキに問うた。 「フキ、聞きたい事がある」 「なんですか?」 「ラ村の者が強制的にナーゼに移住させられたと言うのは本当か?」 「強制的……?」 「違うのか?」 「ラ村の者の移住は村長様の息子様とお孫様が亡くなり村を存続出来なくなったから移住を決定したと聞いております。だから西のヴィヌワも移住するようにと指示が出て……」 「ラ村の村長様の息子様とお孫様は魔物の襲撃にあい亡くなったそうですじゃ」  魔物の襲撃! やっぱり西の山でも魔物が強くなってるんだ。魔素溜まりがある限り山に平穏はこないのかな……。キトを見ると難しい顔をして考え事をしているようだ。 「西も魔物が強くなっているの?」 「西も、と言うことは東も、と言うことですな……」  僕に顔を向けたナキがぽそりと呟いて項垂れてしまった。 「山全体に魔素溜まりが増えているとベーナ族のヨハナさんが言ってました。だから僕達ヴィヌワを安全な砦に保護するのだと聞いています」 「保護と言うのは本当の話だったのか……」 「キャリロに比べてヴィヌワは数が少なくなってきてますし、壊滅している村もあると……」 「壊滅?」 「山の奥の村の話ですが、度重なる魔物の襲撃に耐えられず壊滅してしまったのではないか、と噂がありますな」  三人の会話を聞きながら僕は思った。ワ村もずっとあそこにあったのでは壊滅するのも時間の問題だったのではないか、と。 ***  一時間並んでやっと入れたナーゼ砦。その中は僕の語彙力では表せない位すごいとしか言いようが無かった。  門の中に入った瞬間世界が変わったのだ。巨大な壁の中に大小様々な本で見たことのある店があり、店先にはその店が何を売っているか一目で分かる看板がある。店も食べ物屋だったり武器や防具を扱ってるものだったり色々だ。匂いも肉を焼いてる匂いに甘い乾燥果実の匂いがする。ベーナは当たり前だけどルピドにリオネラ、キャリロにヴィヌワ、多種多様な種族が歩き、店先の椅子でなにやら食べていたりする。  そして一番驚いたのが、道がずっと先まで続いているんだ。 「キト! キト! すごいね!」 「草原にはここ程の規模ではないが、いくつか町と言うものがあるらしい」 「そうなんだ!」  漂ってきた肉の美味しそうな匂いに鼻がひくひくと動き勝手に匂いを嗅いでしまう。とても良い匂いに僕のお腹がきゅーと鳴った。切なくなってお腹を擦っている僕の前に誰かが立ったのか影が出来た。 「ヴィヌワの人は書いてもらわないといけない書類があるから、着いて来てちょうだい」  出来た影を追うように顔を上げて見ると革の鎧と剣を腰に佩いている巨大なベーナ族が立っていた。本で見た通り、小さく茶色の耳と見上げる程の巨体、尾は小さいって本に載ってたから僕からは見ることができない。キトよりも背の高いその人はうふふと笑うとフードを被っている僕を覗き込んできた。 「やっぱりヴィヌワの子供は可愛いわね~。ぼくちゃん、いくつ? お阿仁さんと来たのかしら?」  しゃべり方が変! くねくねと変な動きもするし! 「俺達に何の用だ」    僕を庇うように目の前に立ったキトが喉から『ヴヴヴ』と威嚇音を出し、腰に佩いている短剣に手を伸ばした。 「ちょっとちょっとこんな所で威嚇音出さないでちょうだい! 短剣も出さないで! あたしは貴方達に用があってここにいるのよ!」 「だからその用とは何だ」 「いいから! ちょっとこっちに来てちょうだい!」  キトと僕の腕をむんずと掴んだベーナ族が腕を持ったままずんずんと歩いていく。力が強いから振り解く事も出来なくて泣きそうになってキトを見ると掴まれた腕をぶんぶんと振って解こうとしている。  離す事も出来ずに諦めたキトと僕はその人に腕を掴まれたまま後に着いて行った。  

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