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2章 12話 ヴィヌワ保護区

 六日に渡った御魂送りは無事終わった。  キトの舞いを見た僕は、やっぱりキトはすごい人だと改めて思った。詠唱の文言もそうだけど、精霊降しの舞はとても華やかで心躍る舞だった。風だって僕の時みたいに荒れてなかったし……   僕は一つだけ文言を間違えていた、とキトに指摘された。『僕は請う』ではなく『我は請う』なのだと。  全部終わってから指摘するのではなくて途中で言って欲しかったって思ったけど、でも立派だったと褒めてくれたのが一番嬉しい。 「キト様、この方はどうなさいますか?」 「ん? ル村の者か。年はいくつだ?」 「えーっと、四十を一過ぎたばかりでございます」 「探索者ギルドに登録はしているか?」 「一応登録しているようですが……」 「その者が希望をしているのだから、商業ギルドにしろと言っても聞かないだろう」  御魂送りが終わってから十日。  僕が朝ごはんを食べている前でキトとジトが保護区にいる者の事を話し合っていた。困った事が起きた時、ほとんどの村長がキトに相談にくるようになってしまった。    僕達ヴィヌワが保護区で生活をしていくにあたり、若者と老人で違う仕事をする事に決めた。若くまだ戦える者は探索者ギルドに登録して薬草の採集や魔物の討伐をしてお金を稼ぎ、持ち帰った薬草や魔物の肉や皮は老人や手先の器用な人が加工し他の種族に売る事に決めたのだ。加工した物は主に老人が商業ギルドに登録し中央通に露天を出すことが決まった。  そして、稼いだお金や売れた物のお金の一部は保護区内で厳重に警備されている建物に集められる。そこから保護区内でいるものや、保護区を維持をするお金を出していくらしい。  親を亡くした子供達は一箇所に集め、皆が変わりばんこで育てる事がきまった。それを全部考え付いたのはキトで。でもキトはヨハナさんにベーナ族のやり方を聞いたと言っていたけど、キトはやっぱりすごい!  「リト、早く食べなさい。やらなければいけないことがあるだろ? 昼にはヨハナのとこに行かないといけない」 「はぁい」 「リト様、喉に詰まらせないように気をつけて下さいね」 「うん」  そんな僕は補佐の仕事を勉強中でキトの役に立っていない。いまだって、任されている仕事は書類と言われた紙にキトに言われた通りに印を押しているだけだ。  早く僕もジトみたいになりたい。 「ヨト、リトが食べ終わったら財務館に送ってくれ。俺もすぐに行く」 「分かりました」  そう言ってキトがパンを置いてどこかに行ってしまった。財務館は皆から集めたお金を保管しておく場所だ。僕は今、そこでキトを補佐している村長達と一緒に仕事をしているのだ。  まだ印しか押せないけど……。 「僕も早くジトみたいになりたい」 「リト様もすぐになれますよ。印を押す仕事はとても重要な仕事だとキト様より聞いております」 「そうなの?」 「書類を見て印を押しているのですよね? ヴィヌワの者の中には字が読めない者も少なくありません。その中でも字の間違いを指摘し書き直し、どこが間違っているのか教え、印を押す。とても立派な仕事でございますよ、リト様」 「そうかな~? そうかな~?」 「そうですよ。だからリト様もすぐにジト様のようになれますよ」 「僕がんばるっ」 「さぁ、食事を済ませてください」 「うん!」  僕はがつがつと食事を食べ終わると鞄を肩にかけて家を出た。 *** 「リト」  キトに呼ばれ書類を睨んでいた顔を上げた。  これから一人だけ決まったルピドの護衛さんとの顔あわせ。他にもいるそうだけど、まだきちんと決まってないらしい。護衛はユシュさんとルピドの人数人。ルピドって聞くと少し怖い。  僕は見ていた書類を片付けて、座っていた椅子から立ち上がった。   「今日は顔合わせだけらしいが、他にも話があるらしい」 「何の話だろう?」 「さぁな」  肩掛け鞄をさげてキトと手をつないで歩く。僕達の後ろに立ったユシュさんがついて来る。  財務館を出て目指すのはヨハナさんが所属している調査隊詰め所だ。  ヴィヌワ保護区の通りを歩きながら僕は周りを見た。  大きな通りに財務館や護衛館、会議館の大きな建物があり、ぽつんぽつんと二階建ての家が並んでいる。ヴィヌワの村には二階建ての建物なんか無いから初めて見た時、家でさえも大きいと思った。僕とキトとジトが住んでいる家は主要な建物がある近くだ。ヨト一家はその隣に住んでいる。  ヨハナさんから聞いた話だとこの保護区だけでも五万人は収容できる規模の大きさなのだそうだ。今はまだがらんとしているけど、山にいるヴィヌワが皆移住してきたら少しは賑やかになるのかな。 「いらっしゃい。応接室に案内するわね」  調査隊詰め所についてノッカーを叩くとヨハナさんが出迎えてくれた。 「ごめんなさいね、ルピドの人まだ来てないのよ。来るまでゆっくりしてて。お茶持ってくるから座っててちょうだい」  応接室に通されてソファーに座るとヨハナさんが出て行った。 「ねぇ、ユシュさんルピドの護衛の人ってどんな人?」 「一言で言うならば、喧しい」 「喧しい?」 「しゃべる事が好きなようだ」 「そうなんだ」 「護衛をきちんとしてくれるなら、誰でもいいさ」  キトの言うとおりだけど、僕は怖くなくて優しい人がいいな、と思った。 「待たせたわね」  暫くして入ってきたヨハナさんの後ろにいる人を見て僕はぽかんと口を開けてしまった。だってヨハナさんの後ろのいる二人のうち一人は僕達ヴィヌワが教えられていた事が覆されるような人だ。  二人のうち一人はどう見てもルピド族の女性にしか見えなかった。  

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