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2章 僕の運命 プロローグ 選択
胸に秘めたこの想いはきっと成就される事はないだろう。
僕が選択したことが皆を苦しめると言うのなら、僕は僕の気持ちを諦めよう。
引き裂かれるような胸に手を置いて僕は前を見据えた。
「リト……?」
「何でもないよ、キト」
僕はちゃんと笑っている事ができているだろうか?
声は、震えていないだろうか?
涙は、出ていないだろうか?
耳は、動いてないだろうか?
「どうした? リト」
「何でもないったら」
首を傾げるキトに顔を向けて僕は微笑む。
何て事は無い。ヴィヌワとして僕は正しい選択をしたのだ。
それは間違っていない。
僕の周りにいる皆も笑顔だ。
僕は……僕は、正しいことをしたのだ。
何を選べばよかったのか、誰を選べば良かったのか。
楽しそうな皆の笑顔か、あの人の悲しみを耐えるような笑顔なのか。
もうそれも分からない。
冷たくなっていく自分の手を握り締めて僕は目を閉じた。
***
何を選択すれば良いのかは一目瞭然だった。
苦しむあの子の姿を見て俺はすぐに決めた。
ヴィヌワの掟を破ることになったとしても。
裏切り者と罵られようとも。
あの子があの子のままでいられるように。
望みは唯一つ。
――あの子の心が悲しみに囚われる事なく穏やかでありますように。
俺は俺の選択を間違いだとは思わない。
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