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3章 7話 婚姻の儀①

「俺の心配はいい。シヴァと伴侶になるのだぞ? 嬉くないのか?」  嬉しくない訳じゃない。番になることが出来ないと思っていたあの絶望の日々。胸を締め付けられるほどの痛み。頭で分かっていながらも、惹かれてどうしようも無かった。 「シヴァを拒絶してまた悲しませるのか?」 「……悲しむ?」 「あいつは泣いていたぞ」  俯けていた顔をそろりと上げた。キトは悲しそうな顔で僕を見ていた。 「俺もお前がいなくなると思うと悲しい」  夢の中に出てきたキトとシヴァさんの悲しそうな顔。あんな顔はもうしてほしくない。 「リト、俺はお前が幸せであれば嬉しい。だから幸せになることだけを考えなさい。ヴィヌワは時間がかかってもどうにかする。それにはお前も手伝ってくれないとな?」 「うん! 僕も頑張る!」 「ならば、崩れた化粧をもう一度施そう」  手鏡を僕の前に差し出してきたから鏡を見ると、頬にほどこされた化粧は涙でくずれてぐちゃぐちゃになっていた。 ***  ゆっくりとヴィヌワ保護区の道を歩く。僕のローブの裾を地につかない様に持ったシナとセナが僕の後ろを歩いている。  通りは人で溢れ、僕に拍手と祝福の言葉をかけてくれる。 「おめでとうございます。リト様」  声が聞こえてきて驚いた。僕の婚姻を反対していた老人の一人が僕を祝福してくれたのだ。 「お綺麗ですよ、リト様。おめでとうございます」 「「「せーの、おめでとうございます!」」」 「リト様、婚姻おめでとうございます。何時如何なる時も伴侶と共に幸せである事を願っております」 「「「おめでとうございますー!」」」  ぞくぞくと声をかけてくれる人達は皆笑顔だ。  少しは認められたと言うことなのかな?  いったい何が起きたのか分からないまま、僕はゆっくりと中央通りに向けて歩く。  俯けていた顔が上がり、僕も笑顔で皆を見る。祝福してもらえるとは思っていなかった。特に反対していた人達まで、祝福の言葉をくれると思っていなかった。  胸を張って前に顔を向ける。中央通りとヴィヌワ保護区の通りが交差する場所でシヴァさんがふわりと笑った。  僕と同じ衣装を着たシヴァさんは今まで以上にとても綺麗で立ち止まった僕は呆けた顔をしてシヴァさんを見ていた。 「リト様、このまま進みシヴァ様のお手を取って下さい」  僕のローブの裾を持ったヨトに声をかけられてはっとする。 「シヴァ様のお綺麗な姿を見て惚れ直すのは分かりますが」  かーっと顔が赤くなったのが分かって僕は顔を俯けた。  こんなに綺麗な人が僕の伴侶? 僕は、僕は…… 「リトさん、行きましょうか」  そっと手を持たれて顔を上げる。いつの間にか傍に来てにこりと笑ったシヴァさんを見れなくて僕は顔を俯けた。   「リト様、このままゆっくりお進み下さい。……リト様? リト様?」  どきんどきんと胸が早鐘をうつ。  持たれている右手とは反対の左手で高鳴る胸を押さえたらシヴァさんが僕の後ろを見て頷いた。 「リトさん、ちょっと失礼しますね」  そう言って横抱きにしたシヴァさんの顔が近くに見えて僕はぽーっとシヴァさんを見てしまう。 「こう言う婚儀は初めてですが、リト様が動けない以上仕方ないでしょう」  ぼそりとそう言ったヨトの声が後ろから聞こえた。

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