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3章 9話 新枕①

「こんな格好恥ずかしいよぉ。シナ」  視線を下に向けため息を零す。絹蜘蛛の糸を織って作られた今着ている衣装は、新枕用の衣装だって聞いたけど、これは本当に恥ずかしい。  膝まであるゆったりとした服なのだけど、前を細い紐で縛るだけで動く度に肌が見えているうえにズボンもはいてないからすーすーするし、衣装自体が透けているから着ている意味があるのか分からない。それに下着だと渡されたものは三角の形をして布の面積も少ない。少し動いただけでおちんちんが見えそうで落ち着かない。 「この衣装はヴィヌワの伝統的な衣装でございますよ。リト様」 「でも……見えてるっ」 「男役の方に見せる為の衣装ですので見えて当たり前です」  涙目でシナを見上げるとにこりと笑って僕の髪紐を結いなおす。 「だって、こんなの……」 「私もこの衣装でヨトと新枕を迎えました。何も恥ずかしい事ではございません。それに寝室に行くまでは白いローブを上に着ますのでリト様の裸を見られることはありませんよ」  そう言う事を言いたいんじゃない。ヴィヌワは番と婚姻するまでは清い体でなくてはいけないから、家族以外の人に肌を見せるのはよしとしない。だけど、この衣装は、なんと言うか、破廉恥だ。 「リト様、この衣装を着て新枕を迎え契りを交わした後に完全に夫婦となるのです」 「シナもこれを着てヨトと契ったの?」 「そうですよ。ヴィヌワの者は皆新枕の時はこの衣装を着ます」 「シヴァさんも同じ衣装なの?」 「男役の方は違う衣装ですね。リト様が着ておられる羽織は一緒ですがここまで透けていません」  キトに聞いた話では、男役が抱く側で女役が抱かれる側なのだそうだ。ヴィヌワは男の見た目だけど、どの人も妊娠出来る体だからきちんと役割をあてはめて置かないと駄目らしい。女役になるのは先に発情期になった人の役目になるそうだけど、ルピドは僕達とは違って男でも妊娠出来る体ではないから僕が女役になるしかないのだ。   「準備は整ったか? シナ」  かちゃりと音がしてドアが開きキトが部屋に入ってくると目を細めて僕を見つめてくる。 「うむ。出来ているようだな」 「出来ているのですがリト様がこの衣装は恥ずかしいと……」 「……リト」 「だってっ」  小さい布の下着以外どこも透けていて全部見えているのが恥ずかしい。こんな破廉恥な格好でシヴァさんと向かい合うのはとても勇気がいる。 「リト。通常の新枕は女役の発情期にあわせて執り行われるものだが、今回リトは発情期がきていないだろ? 発情期が来ている女役のフェロモンに誘われて男役も発情するのだ。発情期が来ていないと男役が発情するか分からない。だからその衣装を着るんだ」 「僕、発情されないってこと?」 「ルピドとヴィヌワでは種族が違う。だからどうなるか分からない。その衣装は男役の性の欲望を高めるものだと言われている。新枕は大切な儀式でもある。失敗するわけにはいかないんだ」 「……」  はぁとため息を吐いたキトがシナに目配せをするとシナは何も言わずに部屋を出て行った。  僕に近づいてきたキトが僕の手を取り、少し揺する。「こっちを見なさい」と言われて僕は顔を上げた。 「お前のフェロモンに誘われた者がお前に手を出してくる者がいるかもしれない。それを避けるためにもシヴァと契って香りをつけてもらうんだ。これはお前を守る為のものだ」 「僕……」 「シヴァと契るのは嫌か?」  キトのその言葉に僕は目線をきょろきょろと彷徨わせる。  シヴァさんと契るのは嫌じゃない。ただ、この格好のままでシヴァさんの目の前に行くのが恥ずかしいだけ。僕は、我侭なのかな……。 「嫌じゃないよ、キト。僕はシヴァさんと番いたいから」 「恥ずかしいだけなら今は我慢しなさい。リトはシヴァと夫婦になるのだから」 「……はぃ」    僕の頭をくしゃりと撫でたキトが微笑む。その笑顔に「大丈夫だ」と言われてるきがして勇気が出てくる。 「シヴァの準備は全部終えているからリトが寝室に入ったらシヴァを部屋に入れる。その後は全てシヴァに身を委ねなさい」 「うん」 「必ず体の奥に子種を注いでもらうこと。分かったな?」 「はい」  僕に白いローブを着せたキトが背中を向けて部屋を出ると振り向いて手招きをする。胸の前でぎゅっと握っていた手をとき僕も部屋を出て促されるままに歩く。  寝室の中に入って僕の頬が熱くなる。  いつもの僕の部屋と違って飾り付けてある寝室。ベットは二人が寝転んでも大丈夫な程の大きさになっているし、ベットの脇にある小さな棚にはキトが教えてくれた潤滑油の小瓶が置いてあり、部屋の明かりは灯されている楼台しかない。  首を巡らせて見ると、壁の近くに棚があってその棚の上には水の入った桶に何枚もの体を拭く布が置いてある。事後を思わせるそれに僕の顔がかーっと赤くなる。  もじもじとしている僕の背中にノックの音が響いたのは僕が部屋に入ってから数分たってからだった。

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