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3章 11話 新枕③
「私は今日は触れ合いだけで済ませるつもりだったんですよ?」
右手で顔を覆ったシヴァさんのその言葉に僕は少なからずショックを受けた。
やっぱり、僕、子供っぽいのかな……。
「いいえ。私の目に映る貴方はとても魅力的な人です。勘違いしないでくださいね?」
あれ? 僕声に出して言っちゃったのかな?
不思議に思ってシヴァさんをそのまま見つめるとくすりと笑って答えを出してくれた。
「思いっきり声に出ていましたよ?」
口を押さえてシヴァさんを見ると、くすくすと笑って僕の頬を撫でる。
「さっきも言ったように、発情期が安定していない時は性行為はしないほうがいいんです。これは貴方の体を守る為です。体の中の傷は本当に危険なんですよ? 命に関わる可能性もあるんです。貴方を亡くせば生きていたくありません。貴方は私の命よりも大切な宝物なのですから」
「宝物?」
大切なものに触れるように優しく僕の両頬に手を添えると僕の額にキスを落とす。
「そうです。無垢な体も清い心も私の宝物です。どの宝石よりも美しい私だけの至宝……」
うっとりと零し、僕を抱きあげて膝に乗せると腕の中に囲われた。少し下にあるシヴァさんの瞳を覗き込み緩く微笑んで告げる。
「それでも僕はシヴァさんと繋がりたい」
「何故そう急ぐのです? 急ぐ必要はないでしょう? リトさんの次の発情期には番になれるのですよ。その時でもいいでしょう?」
シヴァさんと契ったら僕達は夫婦だ。そしたら他のヴィヌワの目線なんて気にしなくてもいい。シヴァさんは分かってないんだ。
ヴィヌワは綺麗な人が好みだ。保護区を歩いているだけでもシヴァさんの美しさに見惚れている人が多い。他の人にシヴァさんを渡したくない。これが独占欲だって言うのを知っている。保護区だけじゃない。調査隊詰め所に移動している時とか中央通りを通って山に行く時とかシヴァさんを見ている人が多い。
「だって、シヴァさん、モテるから……」
「モテる?」
「保護区を歩いてたら皆シヴァさん見てるっ それに、それに」
「私を見ているのではありませんよ? あれは貴方やキトさんを見ているんです」
「違う! 皆シヴァさん見てるもん!」
「いいえ。貴方を見ているんです」
「違うもんっ!」
「埒が明きませんね」と言ったシヴァさんがぎゅっと僕を抱きしめると僕の頬にキスをした。
「砦で私が何と呼ばれているか知っていますか?」
「砦で?」
「はい。有名な探索者には二つ名と言うものがつくのはご存知ですよね?」
こくりと頷いたのを見てシヴァさんが続けて話す。
砦の中でとても有名な探索者には二つ名と言うものがつくとヨハナさんが言ってたっけ。それは栄誉あることだと聞いた。
「私の二つ名は”氷の狼”です」
「氷の狼? なんか冷たそう」
「私自身好きな二つ名ではないですが、砦の者は私をそう呼びます」
こんなに暖かくて優しい人が”氷の狼”なんて二つ名?
「何があっても笑わず任務だけを全うし、剣で魔物を屠る姿を見た方がそうつけたそうです」
笑わない?
笑っていない所なんて見たこと無い。シヴァさんの笑顔に見守られるから苦手な勉強だって頑張ろうって思うし、何も持っていない僕だけど、皆の為に、砦の人達の為に、出来ることをしたいって思うんだ。キトを助けたいってのもあるけど……。
でもシヴァさんの笑顔が僕に勇気を与えてくれるから頑張ろうって思える。
「私が貴方以外の前で笑ったことは一度たりともありませんよ。そりゃあ仲間内で冗談を言い合うことはありますが、笑わずに言うから本気か冗談か分からないと言われる事が多々あります。私はね、貴方以外に笑顔を向けようとは思えない。貴方以外なんてただの有象無象に過ぎないのですから。そんな相手に笑顔で接するなんて、無駄な事だとしか思えないんですよ。だから……嫉妬する必要はありません。私の心も体も全て貴方のものです」
「僕、の?」
恭しく僕の手を取り手の甲に口付ける。
それは物語で見た王子様がお姫様に愛を囁く場面みたいだ。慈しみ蕩けるような笑顔で顔を近づけてきたシヴァさんが僕の耳元で囁いた。
「この体に流れる血も魂も全て貴方だけのものです」
火が吹いたように顔が熱くなる。囁かれた耳が熱くて、まともにシヴァさんの顔を見ることが出来なくて視線をきょろきょろと彷徨わせてしまう。
「ちょっと刺激が強すぎたみたいですね」
にこりと笑ってシヴァさんが僕の脇に手を入れて僕を隣に移すと僕の手を取って撫でた。
「リトさん、貴方はまだ成長途中です。無理に体を繋げると貴方の体と心に消えない傷を作ってしまうかもしれない。……私はそれが一番いやなのです。これは貴方に魅力が無いと言っている訳ではありません。今この場で貴方を抱いて私だけのものにしたいのが本音です。ですが、私の気持ちより貴方の体と心を大切にしたいのです」
「……でも、キトが」
「キトさんには私から言っておきます。なので、今日はこうやって触れ合うだけにしましょう?」
「う、うん。分かった」
真っ赤な顔のまま頷いて、そろそろと顔を上げてシヴァさんを見る。ふわりと笑ったシヴァさんが僕の頭を撫でて髪にキスを落とす。
シヴァさんが僕を大切してくれているのは分かる。いつでも僕に気遣ってくれて、何をするにも僕が最優先で。
誰かが言っていたっけ? 心で繋がるんだって。誰が言ったのかもう覚えていないけど、多分こう言うことを言うのかな? 僕とシヴァさんは運命の番。どんな事があっても僕達は魂で繋がっている。だから、シヴァさんの言う通り、今日はシヴァさんとゆっくりしよう。でも僕の次の発情期には僕の全てをあげる。これは絶対だ。
僕とシヴァさんは二人眠くなるまでソファーで色々な話をして過ごした。
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